家族の在り方が多様化しており、中には別居婚を選択するケースもあります。
別居婚をする場合、夫婦の住民票はどうなるのでしょうか?
また、別居婚によって夫婦の住民票が分かれていることで、デメリットはあるのでしょうか?
今回は、別居婚の場合の住民票の取り扱いなどについて、弁護士が詳しく解説します。
目次
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別居婚とは
「別居婚」は法律用語でなく、法律上の明確な定義はありません。
一般的には、婚姻届を出した夫婦が同居せず、別々の住所で暮らすことを指すことが多いでしょう。
一口に「別居婚」といってもその形態はさまざまであり、次のケースなどが考えられます。
- 夫婦が遠方に居住してたまに会う
- 同じマンションの別の部屋など、いわゆる「スープの冷めない距離」に居住する
- 平日は別居し、週末のみ同居する
- 夫婦がそれぞれ実家に暮らしながら婚姻する
夫婦が別居するという点では、単身赴任や親の介護の都合から別居する場合も「別居婚」と呼べるかもしれません。
しかし、あえて「別居婚」という場合はやむを得ず一時的に別居するというよりも、夫婦が自ら別居を選択しているとのニュアンスが含まれていることが多いでしょう。
別居婚の場合に住民票はどうなる?
別居婚の場合は、夫婦の住所が分かれていることとなります。
ここでは、別居婚を始める場合の住民票の取り扱いについて解説します。
夫婦の住民票は分けることができる
前提として、夫婦の住民票は分けることが可能です。
夫婦が負う義務として「同居義務」があるものの(民法752条)、夫婦が合意のうえで別居したり住民票の世帯を分けたりすることが、ただちに同居義務に違反するわけではありません。
そのため、たとえば別居婚によって夫がA県X氏に、妻がB県Y氏に居住する場合は、夫の住民票はA県X氏に、妻の住民票がB県Y氏にあることとなります。
また、住民票の「世帯主」は、同じ場所で住民登録をしている人の中から代表者を一人選ぶことが基本です。
別居婚である場合において、妻の住民票の世帯主を夫としたり、夫の住民票の世帯主を妻としたりすることはできません。
別居婚の場合は、それぞれが住民票上の世帯主となることが一般的です。
実家で暮らしている場合は、父などが世帯主である住民票に入ったままとすることもあります。
なお、婚姻届には「同居を始めたとき」として年月日を書く欄がありますが、別居婚の場合は、ここは空欄で構いません。
婚姻によって住所が変わらないなら住民票異動の手続きは不要
別居婚の形態はさまざまですが、それぞれがそれまで住んでいた家に住みつつ、婚姻届のみを出すことも多いでしょう。
このように、婚姻に伴って引っ越しをしない場合は、別居婚を始めるにあたって住民票を異動させる手続きは必要ありません。
また、自分の両親などと同じ住民票に入りながら、別居婚を開始することもできます。
同じ住民票に入っている人は、必ずしも同じ名字でなければならないなどの制約はないためです。
たとえば、A山太郎氏とA山花子氏の娘であるA山良子氏が婚姻によってB田へと姓が変わっても、A山太郎氏が世帯主である住民票に留まることができるということです。
一方で、B田へと姓がかわった良子氏が両親と同居は継続しつつも、両親とは住民登録上の世帯を分け、自分1人の世帯とすることもできます。
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別居婚で戸籍はどうなる?
住民票と戸籍とでは、基本的なルールが異なります。
夫婦が同居する場合は、その違いを意識することは少ないかもしれません。
一方で、別居婚の場合は住民票と戸籍の違いに直面することが多く、戸惑ってしまうことでしょう。
ここでは、別居婚を始めるにあたって知っておくべき戸籍のポイントを2点解説します。
戸籍は夫婦で分けることができない
住民票は夫婦で分けることができる一方で、たとえ別居婚であっても夫婦で戸籍を分けることはできません。
夫婦がともに日本国籍である以上、戸籍法によって「戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する」と規定されているためです(戸籍法6条)。
そもそも、日本において婚姻とは夫婦が同一の戸籍に入ることを意味しており、戸籍を同一としない夫婦は法律上の夫婦ではない「内縁」や「事実婚」となります。
内縁や事実婚の場合は、お互いに相続権がなかったり税務上の配偶者控除を受けられなかったりするなど、配偶者として扱われず不利益を被る場面が多くなります。
また、同じ戸籍に入る人は同じ名字でなければならず、令和5年(2023年)時点では、別居婚であっても夫婦別姓とすることはできません。
本籍地は住所地と同じでなくてもよい
住所は分かれていてもよい一方で、戸籍は同じでなければならないとなると、夫婦の本籍地をどうすべきかと疑問が湧くことでしょう。
婚姻届には夫婦の新しい本籍を書く欄があり、これを記載しないと受理してもらえません。
勘違いしている人も多いものの、実は本籍はどこに置いてもよいこととなっています。
とはいえ、戸籍謄本の請求先は本籍地のある市区町村となるなど、遠方に本籍地を置いていると実生活上の不便が生じることもあります。
そのため、実際は夫婦のいずれかにゆかりのある場所を本籍地とすることが一般的です。
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別居婚で夫婦の住民票が分かれているメリット
別居婚では夫婦の戸籍は同一である一方で、住民票は別々となることが一般的です。
では、夫婦の住民票が分かれているメリットはどのような点にあるのでしょうか?
残念ながら、夫婦の住民票が分かれていることによるメリットはほとんどありません。
強いて挙げるとすれば、婚姻に伴って住所変更の手続きが必要ないことです。
運転免許証や金融機関、クレジットカード、自動車など住所変更手続きが必要なものは多いため、手続きが減ることはメリットだといえます。
とはいえ、夫婦が元々偶然同姓であった場合などでない限り、婚姻する際はいずれかが名字を変えなければなりません。
そのため、たとえ住所変更の手続きは必要がなくても、夫婦のいずれかは名字変更の手続きは必要となります。
また、選挙の際の投票所入場整理券など世帯主宛にまとめて届く書類は多い一方で、夫婦の住民票が分かれていればそれぞれ別で送付されます。
このような書類を配偶者宛に送らず自分が確実に受け取りたい人にとっては、この点がメリットといえるかもしれません。
別居婚で夫婦の住民票が分かれているデメリットと注意点
別居婚によって夫婦の住民票が分かれていることが、デメリットとなることもあります。
ここでは、住民票が別であることによる主なデメリットと注意点を3つ解説します。
国民健康保険は世帯主宛に請求される
国民健康保険とは、自営業者やパートやアルバイトなど、職場の健康保険などに加入していない人が加入する医療保険制度です。
国民健康保険は住民票上の世帯主が納付義務者であり、世帯員に複数の国民健康保険加入者がいる場合であっても、世帯主に対してまとめて請求がなされます。
つまり、夫婦がともに国民健康保険の加入者である場合、夫婦が同居している場合は世帯主にまとめて請求されるということです。
一方で、夫婦の世帯が分かれている場合は、夫の国民健康保険料は夫に、妻の国民健康保険料は妻に対してそれぞれ請求がなされます。
なお、これはあくまでも「国民健康保険」の話であり、会社員などが加入する健康保険の場合は給与などから天引きされるため、世帯主宛に請求されるわけではありません。
勤務先の家賃補助や家族手当から外れることがある
勤務先の企業によっては、家賃補助や家族手当などを支給していることがあります。
ただし、支給要件として夫婦の同居を定めていることがあり、同居していない場合は手当の支給が受けられない可能性があります。
これは勤務先の就業規則などの定めによって異なるため、別居婚を始める前に手当の支給要件などを確認しておくとよいでしょう。
遺族年金の受給資格がなくなることがある
遺族年金とは、国民年金や厚生年金保険の被保険者や被保険者であった人が亡くなった場合において、その人よって生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。
遺族年金を受け取るためには、亡くなった者に「生計を維持されていた」ことが必要であり、たとえ配偶者であっても生計を維持されていなかったと判断されれば支給を受けることができません。
遺族年金における「生計を維持されていた」とは、次の要件をいずれも満たす場合を指します。※1
- 生計を同じくしていること:同居していること。ただし、別居していても、仕送りをしている、健康保険の扶養親族である等の事項があれば認められる
- 収入要件を満たしていること:前年の収入が850万円未満であること。または所得が655万5千円未満であること
住民票が分かれているからといって、直ちに遺族年金の支給要件から外れるわけではありません。
しかし、夫婦が別居しているうえ、生活費などの授受がなくそれぞれの収入で独立した生活を営んでいた場合は、遺族年金を受け取れない可能性が高くなります。
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別居婚に関するその他の手続きの疑問
最後に、別居婚に関するその他のよくある疑問とその回答を紹介します。
別居婚でも健康保険の扶養に入れる?
別居婚であっても、健康保険の扶養に入ることは可能です。
ただし、通常の同居婚と同じく、収入などの要件は満たさなければなりません。
別居婚でも所得税の配偶者控除は受けられる?
別居婚であることを理由に、所得税の配偶者控除の適用が受けられなくなることはありません。
収入など他の要件を満たすことで、別居婚の場合であっても配偶者控除などに適用を受けることが可能です。
別居婚で出産したら子どもはどうなる?
子どもが誕生したら出生届を出すこととなりますが、これによって夫婦の戸籍に子どもが加わります。
この点は、同居婚の場合と特に変わるところではありません。
一方で、問題となるのは子どもの住所地です。
子どもの住所地については、出生届に生まれた子どもの住所(住民登録をするところ)を記載する欄があり、ここに夫か妻いずれかの住所地を記載します。
その結果、子どもと同じ住所となった親が入っている住民票に、出生した子どもも記載されることとなります。
なお、子どもが誕生すると、子どもの住所地の市区町村役場から予防接種のお知らせが届いたり、母子手帳を受け取ったりします。
いずれ保育園などに入る場合は、子どもの住所地の園に入ることが一般的です。
そのため、子どもを夫と妻いずれと同じ住民票に入れるのがよいかよく検討したうえで、出生届を記載するとよいでしょう。
子どもが生まれてもなお別居婚を継続するのか、子どもが生まれたら同居するのかなどについても、別居婚を始める時点でよく話し合っておく必要があります。
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まとめ
別居婚の場合であっても、夫婦の戸籍は同一となります。
一方で、夫婦が同居しない場合は、住民票は別となることが原則です。
夫婦の住民票が分かれていると勤務先による手当の対象から外れる可能性があるほか、万が一死亡した際に遺族年金の支給対象から外れるリスクがあります。
また、別居婚で子どもが生まれると子どもの住所について夫婦間で意見がまとまらず、トラブルとなる可能性も否定できません。
そのため、別居婚をする場合はデメリットについてもよく理解したうえで、夫婦間でよく話し合って決断することをおすすめします。
そして、別居婚を始める前に、子どもができた場合の取り扱いやいつまで別居婚を続けるのかなどについて、取り決めをしておくとよいでしょう。
Authense法律事務所には夫婦関係のトラブルに強い弁護士が多く在籍しており、別居婚にまつわるトラブルについても数多くの解決実績があります。
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