さまざまな事情により、別居婚をする夫婦も少なくありません。
別居婚を始める場合、婚姻届はどのように記載すればよいのでしょうか?
また、別居婚にはどのような注意点があるでしょうか?
今回は、別居婚の場合に必要となる手続きや婚姻届の書き方、別居婚の注意点などについて弁護士が詳しく解説します。
目次
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別居婚とは婚姻届を出すものの同居しない夫婦の形
別居婚とは、婚姻届を提出して法律上の夫婦になるものの、その後同居をしない夫婦の形です。
別居婚を選択する理由はさまざまですが、主な理由としては次のものなどが考えられます。
- 自由を失いたくないから
- 仕事や趣味に集中したいから
- 相手に対する新鮮な気持ちを保ちたいから
- 異なる地域で実現したい夢などがあるから
- 前婚などの子どもが幼く、成人するまでは子どもと再婚相手を同居させたくないから
夫婦が別居するという点では、単身赴任や親の介護などを理由とした一時的な別居なども「別居婚」といえるかもしれません。
しかし、あえて「別居婚」と呼ぶ場合、夫婦がお互いの考えから別居を選んでいるとのニュアンスが含まれていることが多く、単身赴任などやむを得ない事情による一時的な別居は「別居婚」とは異なるとの見方もあります。
別居婚は法律用語ではなく明確な定義はないため、場面によって異なるニュアンスで使われている可能性も否定できません。
別居婚をする場合の手続き
別居婚を始める場合、どのような手続きが必要となるでしょうか?
ここでは、別居婚を始めるにあたって必要となる手続きについて解説します。
別居婚の手続きは婚姻届を出すだけ
別居婚を始めるための手続きは、一般的な婚姻と同じく、市区町村役場に婚姻届を提出するだけです。
別居婚であるからといって、他に何か特別な手続きが必要となるわけではありません。
婚姻届は、全国どの自治体にも提出が可能ですが、以下の市区町村役場に提出する場合以外は、当事者の戸籍謄本が必要となります。
- 夫か妻いずれかの本籍地の市区町村役場
- 夫か妻いずれかの住所地の市区町村役場
市区町村役場の開庁時間は平日9時から17時頃であることが一般的であるものの、婚姻届の提出は夜間や休日など時間外であっても可能です。
引っ越ししない場合は住民票の手続きは不要
一般的な婚姻では、婚姻届を提出する前後で引っ越しをすることが少なくありません。
婚姻に伴って引っ越しをする場合は、婚姻届とは別途、住民票の異動手続きも必要です。
一方、別居婚の場合は婚姻の前後で引っ越しをしないことも少なくないでしょう。
この場合は、婚姻に伴う住民票の異動手続きは必要ありません。
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別居婚をする場合の婚姻届の書き方
別居婚をする場合、婚姻届はどのように記載すればよいでしょうか?
ここでは、別居婚の場合、記載にあたって迷いがちなポイントをピックアップして解説します。
住所
婚姻届には、夫と妻それぞれの住所を記載する欄があります。
ここは夫になる者と妻になる者がそれぞれ、婚姻届を提出する時点における住民票の住所地を記載します。
夫の住所と妻の住所が異なっていても問題ありません。
世帯主の氏名
住所の下に、世帯主の氏名を書く欄があります。
これは、婚姻届を提出する時点における、それぞれの世帯主の氏名を記載します。
たとえば、婚姻届を提出する時点で夫と妻がそれぞれ1人世帯である場合は、夫側の世帯主は夫自身、妻側の世帯主は妻自身となります。
また、実家で暮らしている場合などには、父や母が世帯主であることが一般的です。
新しい本籍
婚姻届には、「婚姻後の夫婦の新しい本籍」を記載する欄があります。
別居婚の場合に夫婦の住所は分けることができる一方で、本籍を分けることはできません。
戸籍法において「戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する」と定められているためです(戸籍法6条)。
そのため、別居婚であるかどうかに関わらず、法律婚である以上は夫婦の本籍は同一となり、同じ戸籍に入ります。
なお、日本人同士の夫婦が本籍を異にするためには、法律婚を諦めていわゆる「事実婚」とするほかありません。
夫婦の本籍を同一にすべきとなると、本籍をどこにすべきか迷うことも多いでしょう。
誤解している人も少なくないものの、本籍は住所と同じである必要はなく、どこであっても構いません。
とはいえ、戸籍謄本を取り寄せる際は原則として本籍地を管轄する市区町村役場に請求する必要があり、あまり縁のない場所に本籍を置いてしまうと手続き面での不便が生じかねません。
別居婚の場合は、次の場所などが本籍地の有力な候補となるでしょう。
- 夫の住所地
- 妻の住所地
- 夫の実家の所在地
- 妻の実家の所在地
同居を始めたとき
婚姻届には、「同居を始めたとき」として日付を記載する欄があります。
別居婚の場合は同居を始めていないため、この欄には何も記載しなくて構いません。
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別居婚に関する婚姻届以外の手続きに関するよくある疑問
別居婚では、婚姻届以外にも手続きに関する疑問が湧くことでしょう。
ここでは、別居婚にまつわる手続きに関してよくある疑問とその回答を紹介します。
国民健康保険は誰が支払う?
国民健康保険とは、自営業者や自営業者の配偶者などが加入する医療保険です。
同一世帯内に国民健康保険の加入者が複数いる場合、国民健康保険料の納付義務者は世帯主となります。
そのため、夫が世帯主であり夫と妻がともに国民健康保険の加入者である場合は、夫の国民健康保険料と妻の国民健康保険料がまとめて夫宛に請求されます。
一方、別居婚の場合は、夫婦の世帯主は同一ではありません。
そのため、別居婚の夫婦がともに国民健康保険の加入者である場合、国民健康保険料はそれぞれの世帯主に対して請求されます。
健康保険の扶養に入れる?
健康保険とは、会社員などが加入する医療保険です。
国民健康保険とは異なり健康保険には扶養の概念があり、会社員(例:夫)の配偶者(例:妻)の収入が一定以下である場合は、妻は夫の扶養に入ることができます。
扶養に入っている妻は、自身の保険料の納付が不要となります。
健康保険の扶養に入れるかどうかに、配偶者と別居しているか同居しているかは関係ありません。
そのため、別居婚であっても収入など他の要件を満たすのであれば、扶養に入ることが可能です。
所得税の配偶者控除の適用は受けられる?
配偶者の所得が一定以下である場合、配偶者控除や配偶者特別控除の対象となり、所得税が軽減されます。
所得税の配偶者控除などを受けられるかどうかには、同居しているかどうかは関係ありません。
そのため、別居婚であっても収入などの要件を満たすのであれば、配偶者控除や配偶者特別控除の適用を受けることが可能です。
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別居婚の夫婦に子どもが生まれた場合の住所
別居婚の夫婦に子どもが生まれた場合、子どもの住所はどうなるのでしょうか?
子どもが生まれたら出生届を出すことになりますが、出生届には「生まれた子の住所」を記載する欄があります。
この住所が子どもの住民票上の住所となり、原則として夫か妻いずれかの住所を記載することとなります。
ここに夫の住所を記載した場合は夫の側の住民票に、妻の住所を記載した場合は妻の側の住民票に、子どもが掲載されることとなります。
子どもの住所は、夫と妻のどちらと同じにしても構いません。
ただし、母子手帳の交付場所や予防接種などは、子どもの住所地が基準となります。
子どもが保育園などに入る場合も、子どもの住民票上の住所地が入園先の基準となることが原則です。
そのため、これらを踏まえて、子どもの住所をどちらとするか検討するとよいでしょう。
子どもの出生をきっかけに別居婚を解消し、夫婦が同居を開始することも有力な選択肢の一つとなります。
別居婚で婚姻届を提出する際の注意点
別居婚には、同居婚とは異なるさまざまな注意点やデメリットがあります。
別居婚で婚姻届を出す際には、どのような点に注意する必要があるでしょうか?
ここでは、別居婚を始める際に知っておくべき主な注意点を3つ解説します。
相手の不貞行為に気付きにくい
別居婚は自由が多い反面、不貞行為が起きやすくなります。
別居婚の場合には、不倫相手と会った後で配偶者が待つ家に帰る必要がないためです。
中には、自宅内に配偶者の痕跡が少ないことをよいことに、自宅に不倫相手を連れ込む場合さえあるでしょう。
さらに、別居婚の場合は、相手の不貞行為に気付きにくい傾向にあります。
別居婚の場合、配偶者の帰宅時間が不自然に遅くてもそのことに気付きにくいうえ、毎日同じ家で過ごすわけでもないためです。
相手が不貞行為に及んだ場合、これは離婚原因や慰謝料請求の原因となります。
しかし、相手が不貞行為を否定している場合に離婚や慰謝料請求をするには、証拠がなければなりません。
別居婚の場合は、証拠をつかむハードルも高くなりやすいといえます。
子どもができた際にトラブルとなりやすい
別居婚では、子どもができた際にトラブルとなる可能性があります。
別居婚を貫こうとする夫婦の仲には、子どもを設けない予定とすることも少なくないでしょう。
しかし、夫婦である以上、懐胎する可能性をゼロとすることは困難です。
妻が懐妊した場合、子どもをどうするかについて夫婦間で意見が相違すると、夫婦関係の維持が困難となるほどの溝が生じる可能性があります。
代表的な例としては、懐胎した妻が子どもを産むことを希望する一方で、夫が出産を容認せず堕胎を望むケースです。
また、出産前後に生活についての考え方が相違することもあるでしょう。
それまでは夫婦が独立して自由な生活ができていたとしても、出産前後では妻の自由は大きく制限されたり収入が多く減ったりすることが少なくありません。
そうであるにもかかわらず、夫が引き続き自由な生活や独立した生活を営むことに固執すると、夫婦関係が破綻する原因となります。
いざ妊娠してからトラブルが生じないためにも、別居婚で婚姻届けを出す際は、次の事項をよく話し合っておくことをおすすめします。
- 子どもを設ける予定はあるか
- 子どもを設ける予定がない場合、妻が懐胎したらどうするか
- 子どもができたら別居婚を解消し、同居するつもりはあるか
- 妊娠中の妻をサポートしたり子どもの養育に関わったりするつもりはあるか
- 出産前後や出産後の生活費はどうするか
話し合いの時点で考え方が決定的に異なると感じたら、婚姻届の提出自体を見送ることも一つの選択肢でしょう。
離婚時に財産分与がゼロとなる可能性がある
財産分与とは、離婚に伴い夫婦の共有財産を、原則として2分の1ずつに分けることです。
たとえば、夫のみが外部から収入を得ており妻が専業主婦などであった場合、夫名義の財産が積み上がっている一方で、妻名義の財産がほとんどないことも少なくありません。
しかし、夫が外部から収入を得てこられたのは、妻による内助の功があったためです。
そのため、財産の表面上の名義がどちらになっているかを問わず、離婚時には原則として2分の1ずつの割合で財産を分けることとなります。
一方で、別居婚の場合は財産分与が認められないことが少なくありません。
別居婚でお互いに独立した生活を営んでいた場合、内助の功はほとんどなかったものと判断されやすいためです。
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まとめ
別居婚を始めるにあたって特別な手続きは不要であり、市区町村役場に婚姻届を提出するだけで手続きは完了します。
婚姻届には「同居を始めたとき」を記載する欄がありますが、別居婚の場合、ここは空欄で構いません。
なお、別居婚であっても他の要件を満たすことで健康保険の扶養に入ることも可能であり、所得税の配偶者控除などの対象ともなります。
ただし、別居婚の場合は相手の不倫に気付きにくいことや子どもができたときにトラブルになりやすいことや、離婚時の財産分与がゼロとなる可能性があることなど、注意点やデメリットも少なくありません。
そのため、別居婚を始める際はデメリットを十分理解し、婚姻届を提出する前に相手とよく考え方のすり合わせをしておくとよいでしょう。
Authense法律事務所には男女問題や離婚問題に強い弁護士が多く在籍しており、別居婚にまつわるご相談も数多く寄せられています。
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