養育費を受け取ったら、何か税金がかかるのでしょうか?
また、養育費を支払う側は、養育費を支払っている子を扶養控除の対象にすることができるのでしょうか?
今回は、養育費と税金について、離婚問題に詳しい弁護士が詳しく解説します。
目次
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受け取った養育費は原則として非課税
養育費を受け取ったとしても、原則として税金は課税されません。
その理由は、「所得税」と「贈与税」でそれぞれ次のとおりです。
離婚時に受け取る養育費に対して所得税はかからない
離婚時に受け取った養育費に対して所得税はかかりません。
所得税とは、基本的に本人が得た収入(利益)に対してかかる税金のことです。
会社で働いて給与をもらった場合は、給与という利益が出ているので所得税がかかります。副業や自営業をしていて一定以上の利益を出している場合、その利益は課税対象です。
賃貸不動産を持っている場合も、賃貸収入に対して所得税率をかけ、収入に合わせて所得税を納める必要があります。
しかし、養育費は「子どもの生活費・教育費」です。お金の出し入れだけを見ると、養育費の受け渡しによって一時的に利益が出ているようにも見えてしまいますが、もし養育費がなければ、子どもの安定した生活や十分な教育の場を用意できなくなってしまうかもしれません。
子どもの生活・教育のために使う費用には、課税する必要はないというのが税金の基本的なスタンスです。
養育費をもらっても原則贈与税はかからない
自分の資産や現金を第三者に無料で渡した場合、贈与税の納税が必要です。
養育費も見方によっては「親の資産を子どもへ贈与している」ことになるため、贈与税の対象になるのではないかと不安を覚える人もいますが、基本的に養育費に贈与税はかかりません。
贈与税が非課税になる理由は所得税のケースと同じで、「あくまでも子どもの生活費であり教育費だから」です。
原則、受け取った養育費は子どもの食費や教育費等に使用します。
もらったお金を子どものために使うのであれば、状況としては婚姻中に相手から生活費をもらう状況と大きな違いはありません。
生活費の受け渡しにも贈与税を課税すると、夫婦の収入を合算して生活費を出したり、子どもへお小遣いを渡したりすることもできなくなってしまいます。
そのため、生活費である養育費には贈与税をかけないのが原則です。
取得税法9条・相続税法第21条の3
これらの根拠は、所得税法9条と相続税法21条の3にあります。
ここでは、それぞれ非課税となる財産が列挙されています。
まず、所得税法9条1項15号では、次の所得が非課税として挙げられています。
学資に充てるため給付される金品
扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品
そして、相続税法21条の3、1項第2号では、次の贈与は非課税とされています。
扶養義務者相互間において生活費または教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの
これが根拠となるため、養育費には原則として、所得税も贈与税もかかりません。
養育費を受け取ったら確定申告は必要?
養育費は、上で解説をしたように、原則として非課税です。
そのため、養育費を受け取っても、原則として確定申告をする必要はありません。
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課税対象になるケースとは
養育費は子どもの生活費としてもらっているお金なので、所得税と同様に贈与税も基本的にはかかりません。ただし、養育費の金額や受け取り方、受け取ったあとの扱い方によっては贈与税の対象と見なされる場合があります。
離婚時に相手からもらった養育費が贈与税の対象になるかどうかのボーダーラインは、子どもの養育に通常必要な額かどうかです。わかりづらい表現なので、非課税になるかどうかをもう少し深く掘りさげてみましょう。
「通常認められるもの」の範囲内であれば贈与税はかからない
相続税法には、“扶養義務者相互間において生活費又は教育費にあてるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの”なら贈与税を課税しないというルールがあります。
養育費は子どもの生活費であり、教育費です。
養育費を受け取っても贈与税を納める必要は基本的にはありません。
養育費を一括で受け取ると「通常認められるもの」を越える可能性がある
養育費を受け取って贈与税がかかるのは、通常認められるものの範囲を越えているケースです。
子どもの生活費や教育費として必要とはいえない金額の養育費支払いや、一般的に考えて高額すぎる贈与を受けた場合、贈与税の課税対象になる可能性があります。
注意したいのは、離婚時に養育費を一括で受け取る場合です。離婚をする際、「離婚と同時に相手との関わりを断ちたい」「毎月払いだといつ払ってもらえなくなるかわからないから不安」といった理由で、養育費を一括払いしてもらうこともあると思います。
ただ、本来なら生活費や教育費は、継続的にかかるお金です。会社に入社した時点で生涯年収を渡されることがないように、原則として生活費や教育費はその都度支払います。
「今現在必要でないお金を受け取っている」と税務署に判断された場合、「都度払いではないのだから贈与であろう」と贈与税を課税される可能性も否定はできません。
将来的に高額な現金や資産を受け取った場合も贈与税の納税が必要
毎月払い等で継続的に養育費を受け取っている場合でも、たとえば子どもが18歳になった記念に、不動産や高級車といった高額な資産の贈与を受けると、贈与税の納税が必要になる可能性があります。
大学の学費などならともかく、不動産や高級車は、通常認められるものの範囲を越えており、なくても生活には困らないからです。
贈与のタイミングや内容によって贈与税がかかるどうかが変わってくるため、養育費の扱い方には注意を払いましょう。
さらに高額な贈与、生活費や教育費とみなされない高級品の贈与に加えて、気をつけたいのが「贈与税・相続税逃れのための贈与」です。
親子間であっても、本来なら一定金額以上の資金を融通すると贈与税ないし相続税がかかります。
たとえば、財産分与の割合が度を越して大きかったり、資産の大半を養育費や財産分与として払い、離婚しているにも関わらず離婚後も同居していたりする場合、「課税から逃れるための偽装離婚なのではないか」と疑われる可能性があります。
ただ、法律でも「○円以上の贈与なら非課税にはならない」と決まっているわけではありません。
各家庭の状況や離婚した夫婦の収入などによって税務署の判断は変わります。
[注1] e-Gov:相続税法
本来の用途である「子の養育」以外に使用したとされる場合、税金がかかる
養育費として受け取った金銭を、子の養育以外の目的で使用した場合には、税金がかかる可能性がありますので、注意が必要です。
たとえば、次のような場合がこれに該当します。
住宅の購入
養育費として受け取ったお金を貯蓄して、そのお金で住宅を購入した場合です。
この場合には、住宅購入資金の贈与を受けたものとして、贈与税の課税対象となる可能性があります。
子どもの将来のための資産運用
受け取った養育費を元手として資産運用をした場合には、課税の対象となる可能性があります。
なお、NISAなどの非課税制度で運用したとしても、非課税となるのはあくまでも運用益のことであり、贈与税までが非課税となるわけではないため、誤解のないようにしてください。
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養育費に贈与税が課税されたらどうなる?
養育費に課税がされてしまった場合には、どうなるのでしょうか?
具体的に見ていきましょう。
最大税率55%!贈与税の課税額はどう計算する?
贈与税の税率は、
- 200万円以下:10%
- 300万円以下:15%
- 400万円以下:20%
- 600万円以下:30%
- 1,000万円以下:40%
- 1,500万円以下:45%
- 3,000万円以下:50%
- 3,000万円オーバー:55%
です。
ここで、「1,000万円以上の養育費なんてもらえるのか」と感じる人もいるでしょう。
お子さんが幼い場合、20歳になるまで、また大学を卒業するまでの養育費を一括で精算すると、1,000万円を越えることも珍しくはありません。
仮に受け取った養育費に贈与税がかかると、もらった養育費の半分近くが税金となります。
税率の高さを考えると、養育費を受け取る場合は贈与税がかからないように注意する必要があります。
月払い、信託銀行の利用など!養育費を贈与税非課税で受け取る方法
贈与税のかからない形で養育費を受け取る方法は、以下の3つがあります。
養育費を月々の分割払いにすれば贈与税は原則としてかからない
養育費を月々の分割払いにしておけば、基本的に贈与税はかかりません。
ただし、受け取った養育費を投資に回したり、子どもの養育費とはいえない住宅の購入資金にあてたりすると贈与税の対象になる場合があるため、養育費はお子さんの生活費か教育費として使いましょう。
ただ、分割払いにすると途中で支払いが止まってしまうケースも多いです。
離婚する際は離婚協議書や公正証書を作って、養育費の支払いが滞っても対処できるようにしておきましょう。
算定表に従って養育費の額を決める
養育費の金額が「通常認められる範囲内」であれば贈与税はかかりません。
養育費の金額は、家庭裁判所が参考にしている算定表に従って請求することが一般的です。
算定表に従っていれば、「一括払いでも金額は通常認められる範囲内」だと判断してもらえる可能性があります。
相手名義の信託銀行口座に預けて毎月一定額を受け取るようにする
離婚後に相手と連絡を取ることなく確実に養育費を回収したい場合は、養育費を一括で信託銀行に預けてもらうという方法もあります。
信託銀行に預けたお金は適切な用途以外で引き出すことができません。また、名義人であっても自由に口座を解約できないのもポイントです。
相手側名義の口座に入っているお金はあくまでも相手の財産なので、「贈与ではなく、信託銀行を通して毎月子どもの養育費を受け取っている」という形式になります。
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知っておきたい教育資金贈与の非課税制度
養育費を毎月支払うのではなく一定期間分をまとめて支払う場合には、上で解説をしたとおり課税のリスクがあります。
そこで検討したいのが、教育資金贈与の非課税制度です。
教育資金贈与の非課税制度を活用することで、教育資金を一括贈与したとしても、一定の要件のもとに贈与税が非課税となります。
「教育資金」とは
教育資金贈与の非課税制度における「教育資金」には、入学金や授業料など学校へ直接支払う費用の他、学習塾やスポーツ教室、ピアノなど文化活動を習う教室の費用まで広く含まれています。
一括贈与を受け取る際に注意すべきこと
教育資金贈与の非課税制度を受けるには、金融機関と一定の契約を締結することが必要です。
単に確定申告のみをすれば良いわけでないことに注意しましょう。
また、贈与を受けている子が30歳に達した時点で教育資金口座に残高が残っていたなど一定の場合には、贈与税の課税対象となります。
養育費に関する「税金」についてよくある質問
養育費にまつわる税金のよくある質問とそれに対する回答は次のとおりです。
養育費以外に受け取った慰謝料は課税対象になる?
慰謝料とは、離婚にともなう精神的な苦痛に対して支払われるお金のことです。
養育費以外に慰謝料を受け取った場合であっても、慰謝料が適正な金額であれば、原則として課税対象とはなりません。
未払いの養育費を一括で受け取った場合は課税される?
将来の養育費を一括で受け取ることとは異なり、過去分の未払い養育費を一括で受け取ったとしても、原則として課税対象とはなりません。
しかし、まとまった資金が入ったからといって、これを資産運用に回したり定期預金にしたりすれば、課税対象となる可能性があります。
心配な場合には、個別事情に合わせて弁護士へ相談してみましょう。
親権者が養育費を貯蓄したら課税対象になる?
受け取った養育費を定期預金などでそのまま貯蓄をした場合には、課税対象となる可能性があります。
ただし、贈与税には年間110万円という非課税枠が設けられていますので、これ以下であれば贈与税は非課税です。
なお、一時的に普通預金口座入りすぐに支払いに充てる場合には、課税対象とはなりません。
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支払っている養育費は扶養控除の対象となる?
養育費を支払っている場合、子を所得税の扶養控除の対象とすることはできるのでしょうか。
養育費と扶養控除
養育費を支払っている場合、たとえ離婚後同居していなくても、扶養控除の対象とできる可能性があります。
扶養控除の要件に、同居は含まれていないためです。
扶養控除を受けられるケースと受けられないケースは、それぞれ次のとおりです。
扶養控除を受けられるケース
扶養控除の対象とするためには、「生計を一にしている」ことが必要です。
別居して養育費を支払っている場合、生計を一にしているといえるための要件は、次のとおりです。
扶養義務の履行として養育費を支払っていること
成人に達するまでなど、一定の年齢に限って養育費が支払われていること
この要件をいずれも満たす場合には、扶養控除の対象とすることができます。
扶養控除が受けられないケース
養育費を支払っていても、上で解説した要件に一つでも当てはまらない場合には、扶養控除の対象とすることはできません。
たとえば、扶養義務の履行としてではなく、単なる生前贈与として資産を渡している場合などです。
控除の対象と控除できる金額
扶養控除の対象となる場合、原則として1年あたり38万円を、所得から控除することができます。
なお、扶養控除の対象とすることができるのは、その年12月31日現在の年齢が16歳以上の人のみです。
子ども手当が創設されたことに伴って、15歳以下の子は扶養控除の対象から除外されています。
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扶養控除の手続き
扶養控除を受けるための手続きは次のとおりです。
年末調整を行う給与所得者
給与所得者の場合には、勤務先で年末調整を受けることが一般的です。
この場合には、勤務先から配布される「扶養控除等(異動)申告書」に記載をすることで、扶養控除の適用が受けられます。
確定申告を行う個人事業主
確定申告を行う個人事業主の場合には、確定申告で扶養控除を申告しましょう。
具体的には、確定申告書第二表の「控除対象扶養親族」の欄に扶養親族の氏名などを記載したうえで、第一表の「所得から差し引かれる金額」の中にある「扶養控除」欄に、扶養控除額の合計を記載してください。
税金対策として養育費の扶養控除を正しく申告するべき
養育費の支払い対象者を扶養親族にできる場合には、忘れずに扶養控除を申告しましょう。
扶養親族の申告が漏れていても、税務署側から「扶養親族が漏れていませんか?」などと教えてくれることはありません。
扶養控除の注意点
養育費の支払い対象者を扶養控除の対象とする場合には、次の点に注意しましょう。
両親が重複して扶養控除を受けることはできない
1人の子を、父母が重複して扶養控除の対象とすることはできません。
養育費を受け取る側の親にも収入がある場合には、そちらの扶養控除に入れる可能性が高いため注意してください。
手渡しで養育費を支払う場合
養育費の支払いが手渡しだからといって、扶養控除の対象にできなくなるわけではありません。
しかし、手渡しの場合には証拠が残りにくいため、お金と引き換えに受領証などは受け取っておいた方が良いでしょう。
また、中には児童扶養手当を不正に満額受け取るため、養育費をもらっていないと虚偽の申告をするケースもあるようです。
これは犯罪行為ですので、加担することのないよう、可能な限り口座を通して養育費を支払うことをおすすめします。
離婚時に支払った慰謝料は所得控除を受けられない
離婚時に慰謝料などを支払うケースもあるかと思いますが、所得控除や経費となることはありません。
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トラブルを防ぐために離婚前に取り決めておくべきこと
上で解説したように、1人の子を双方が扶養控除の対象にすることはできません。
父母が共に扶養に入れたいと考える場合には、養育費を決める際に扶養控除をどちらが受けるのかについても決めておき、書面で残しておきましょう。
なお、長女は妻側の扶養控除の対象として、長男は夫側の扶養控除の対象とするなど、子ごとに異なる取り決めをすることも可能です。
まとめ
養育費は原則として非課税ですが、受け取り方や受け取った後の使い道によっては、例外的に課税される場合があります。
うっかり課税対象となってしまうことのないよう注意しましょう。
また、養育費を支払っている親は、対象となっている子を扶養控除の対象とする余地があります。
ただし、父母がともに同一の子を扶養控除の対象とすることはできませんので、あらかじめ取り決めておくと良いでしょう。
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