コラム

公開 2019.04.16 更新 2024.02.15

将来もらう予定の退職金も離婚での財産分与の対象になる?

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離婚時の財産分与において、対象の財産の中に含めることを忘れがちなのが、「将来の退職金」です。離婚時にはまだ支給されていないため、つい気付くことができず、そのまま離婚条件を確定してしまうこともあります。
今回は、まだもらっていない将来の退職金について、財産分与の対象になるのか、どのような場合に認められるかなど、注意すべきポイントも併せて解説します。

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まだもらっていない退職金は、離婚の財産分与の対象となる?

離婚の際には、夫婦の財産を互いに分割します。
法律上も「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」として、財産分与請求権を明記しています(民法768条1項)。
それでは、財産分与の対象である夫婦の財産に、まだもらっていない退職金は含まれるのでしょうか。

夫婦の財産と判断する基準とは?

まず、夫婦の財産といえるかは、「結婚生活において、夫婦で協力して形成・維持した財産」と認められるかどうかで判断されます。
そのため、結婚前から所有していた財産や、どちらか一方のみでなしえた財産などは、それぞれの特有財産と判断され、夫婦の財産として財産分与の対象にはなりません。

なお、形式的な名義にこだわらず、実質的に夫婦の財産といえるかが重要となってきます。
例えば、預貯金や自宅などの不動産、有価証券や保険、年金などが該当するでしょう。

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まだもらっていない退職金の考え方

退職金は、これまでの勤務態度や業績などの影響を受けて金額が決まり、支給されます。
よって、給与の後払い的な性格があり、結婚生活において夫婦が協力して得た財産といえます。

ただ、まだもらっていない退職金を含めるかどうかは別です。
まず、将来勤務先が倒産する可能性があることや、この先、支給制限事由に該当して支給されるかどうかが明確ではないこと、そして一般的に退職事由によって退職金の金額が変わることなどから、将来の退職金を全て一律に認めることはできません。
ただ、判例では退職金を受け取る「蓋然性が高い場合」に限って、将来の退職金も財産分与の対象に認めているようです。

なお、その場合でも退職金全額が、財産分与の対象にはなりません。
夫婦の財産を決定する時期は、一般的に別居時と解されていますので、退職金が支給される時点では別居していることになり、互いの協力関係がありません。
そのため、結婚していた期間の部分についてのみ、退職金の形成に貢献していたとされます。

退職金を受け取る蓋然性が高い場合とは?

それでは、将来支払われる退職金の中でも、退職金を受け取る蓋然性が高い場合とは、どれくらいの時期を指すのでしょうか。

蓋然性が高いと判断されるのは10年が境目?

Aさんの場合、定年退職まで残すところあと5年での離婚となりました。
このような場合、退職金を受け取る蓋然性が高いといえるのでしょうか。
多くの判例は、それぞれの個別事情にもよりますが、5年であれば、将来の退職金を受け取る蓋然性が高いとして、財産分与の対象になることを認めています。

Bさんの場合、離婚が確定した時点では、定年退職まであと15年ある状態です。
このような場合も結論は同じとなるのでしょうか。
名古屋高裁の平成21年5月28日の判決では、勤務先が私企業において、定年退職まで15年ある状況では、退職金の受給の確実性は必ずしも明確ではないこと、また価額の算出もかなり困難であることを理由に、財産分与の対象とならないと判断しています。

画一的な基準がないため難しい判断になりますが、おおむね10年を超えれば、退職金を受け取る蓋然性が高いとはいえず、財産分与の対象にはならないようです。
なお、東京地裁の平成17年4月27日の判決では、勤務先が学校法人において、定年退職まで9年ある状況で、蓋然性が高いとして、財産分与の対象になると判断しています。

将来の退職金は何をベースにするの?

それでは、将来支払われる予定の退職金について、具体的にどのように算定するのでしょうか。
将来の退職金から、分与される金額を算出する方法は大きく分けて2つあります。

  • ・現時点での退職金をベースにする
  • ・将来に支払われる満額の退職金をベースにする

ただ、将来に支払われる満額の退職金をベースにする場合は、中間利息の控除に注意しなければなりません。
満額の退職金は、定年時に受け取ることが前提で算出されていますが、実際受け取るのは現在なので、時差が生じます。
つまり、その期間分の利息を早めに受け取る分、差し引かなければなりません。

なお、前提として、退職金の支給要件を確認する必要があります。
雇用契約の際の労働契約書や就業規則などに記載されている内容を確認しましょう。

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まだもらっていない退職金を離婚の財産分与で受け取るポイント

それでは、まだもらっていない退職金を、確実に離婚の財産分与で受け取るには、どうすればよいのでしょうか。

離婚時に公正証書を作成する

財産分与の内容は、当事者の話し合いで決定することができます。
どのような財産をどの割合で分割するかを、互いに交渉して決めるわけです。

ただ、口約束や普通の書面の作成では、あとから、そのような内容に合意していない、自分が署名したわけではないなど、財産分与の内容について紛争が起こる可能性が出てきます。
そのため、信頼性の高い文書にて、財産分与の内容を記す必要があります。
それが、公証役場にて作成される公正証書なのです。

なお、公正証書の内容には、強制執行認諾の文言を含めることを、加えておすすめします。
というのも、将来に支給される退職金を、相手が素直に渡してくれないなどの状況に陥った場合に便利です。裁判所には強制執行という制度があります。
裁判所が代わりにお金を差し押さえ、そこから強制的に支払いを受けることのできる制度です。
この強制執行を事前に承諾することを公正証書の内容に入れておけば、退職金を渡してくれない場合にスムーズに手続きが行われます。

あとから将来の退職金が、財産分与の対象だと気付いた場合は?

現時点では退職金が支給されていないので、財産分与の対象ではないと思っていた方もいるのではないでしょうか。
しかし、まだもらっていない将来の退職金が確実に支給されると分かり、財産分与の対象になると気付いたような場合、あとから財産分与の請求はできるのでしょうか。

まず、財産分与を請求するには期限があります。離婚成立後2年以内であれば、離婚後でも請求が可能となっており(民法768条2項参照)、逆にそれを過ぎれば請求はできません。
そのため、まずはこの期間内であるかどうかの確認が必要です。

さらに、将来の退職金については追加で注意すべき事項があります。それが、清算条項です。
清算条項とは、離婚において取り決めした権利・義務以外に、何らの債権債務もないと当事者双方で確認したものです。
せっかく離婚条件を決めたにもかかわらず、あとから蒸し返されることを、当事者としては何としても防ぎたいものです。
そのため、一般的に、あとから追加で請求されないように、公正証書などの文言に、清算条項を入れるのです。
具体的には「今後一切金銭を求めない」などの文言で、清算条項を表します。

この清算条項は、基本的に財産分与請求にも及びます。
つまり、離婚の際に清算条項が記載された離婚条件の書面に合意した場合には、基本的に新たな財産分与請求は認められないと解されます。
ですから、追加で財産分与を請求する場合は、清算条項がないか確認をしなければいけません。
定年退職間際で、退職金の支給時期だと予測して財産分与を請求しても、清算条項により、新たな財産分与が認められない可能性があるので、注意が必要です。

まだもらっていない退職金を財産分与の対象とするには?

確実なのは、離婚条件の中に、将来の退職金を含めるということです。
支給金額が確定していない現時点では、「将来に退職金が支払われた場合は、その時点で支給金額を決める」など、話し合う機会を持つことを入れるのもいいでしょう。

ただ、離婚後の財産分与の話し合いは、離婚前に比較すると難航します。
既に離婚がなされているので、相手方が譲歩する可能性は低く、合意に達することが難しいという見方もあります。
そのため、財産分与については離婚前に交渉することが望ましいといえます。
まだもらっていない将来の退職金についても、離婚条件の中にしっかりと入れておくことをお勧めします。

まとめ

退職金は、老後の生活において重要な資金であり、これまでの労働に対する対価の集大成といえます。
離婚をしても、相手に対する今までの自分の貢献が消えるわけではありません。
支払いの蓋然性が高ければ、将来の退職金も財産分与の対象となりますので、臆することなく財産分与を請求しましょう。

実際の退職金の計算方法など、法律的な専門知識も必要となります。
事前に弁護士などの専門家へのご相談をおすすめします。

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Authense法律事務所では、離婚問題について、豊富な経験と実績を有する弁護士らで構成する離婚専任チームを設けています。
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記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。
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