コラム

公開 2019.05.14 更新 2023.11.28

離婚で財産分与する場合、年金分割はどうなるの?

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夫婦が離婚するときは、財産分与のひとつとして年金を分けることができます。しかし、年金分割の制度を誤解している方は非常に多いもの。正しく理解して、離婚後に後悔がないようしたいものです。今回は、離婚時の財産分与で、年金分割はどうなるのか解説していきます。

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年金分割とは?

離婚時の財産分与で争点のひとつとなる年金分割とは、配偶者が婚姻期間中に納めた厚生年金の保険料を原則1/2として夫婦間で分割し、将来受け取ることのできるそれぞれの老齢厚生年金額を調整する制度をいいます。

年金分割=配偶者が将来受け取る老齢厚生年金を1/2の上限で自分のものにできる制度と誤解している方が多くいますが、将来の年金自体が1/2に分割されるわけではないことに注意が必要です。

離婚時に年金分割が必要な理由は?

20~60歳までのすべての国民が支払わなければならない国民年金の加入者は、次の3種類に分けられます。

・第1号被保険者
国民年金のみを自分で支払う人
→自営業者(フリーランス)、フリーター、学生など
・第2号被保険者
国民年金と厚生年金を給与天引きで勤務先が支払っている人
→会社員、公務員
・第3号被保険者
第2号被保険者の扶養に入り、自分では国民年金の支払いをしなくてよい人
→専業主婦(主夫)、年収が130万円を超えない人

会社員・公務員が国民年金とは別に負担している厚生年金は、給与天引きという形で勤務先が国に支払っています。
そして、厚生年金として天引きされる金額は給与の額によって異なり、給与が多ければその分厚生年金保険料も多く引かれる=より多く保険料を納付していることになります。
つまり、将来受け取る老齢厚生年金額は給与の額が多ければ多いほど高くなるので、収入の違いにより夫婦間で受け取る年金額に差が出ることになります。

また、厚生年金を支払っているのは会社員・公務員である第2号被保険者のみですから、夫や妻の扶養に入っている第3号被保険者は将来、老齢厚生年金は受け取れません。
つまり、第2号被保険者である配偶者とその扶養に入っている配偶者との間にも、将来受け取る年金額に差が出てくるのです。

年金を受給できる年齢になってもお互いが夫婦であれば、夫婦間で受け取る年金額に差があったとしても、それぞれの年金を夫婦の生活費に充てることができるのですから問題はありません。
しかし、離婚をしてしまうと、お互いの家計が別々になってしまうため、夫婦それぞれの受給額の差が問題となってしまいます。

なぜなら、毎月の配偶者の収入(=婚姻期間中に夫婦が協力し合って築いた財産)から捻出して厚生年金保険料を支払ってきたにもかかわらず、離婚により夫婦の一方が受け取れる老齢厚生年金の額が少ない、あるいは夫婦の一方が老齢厚生年金をもらえない、という事態が生じるからです。

そこで、夫婦の一方が厚生年金を支払っている第2号保険者である場合に限り、婚姻期間中に支払った厚生年金保険料を夫婦で平等に分割し、これを元に将来受け取れる年金額を算出して、夫婦の間で受給額に差が出ないようにする制度が年金分割です。

国民年金が対象でないのはなぜ?

年金分割の対象は厚生年金のみです。
つまり、国民年金しか払っていない自営業者の配偶者は、離婚時に相手の年金を分割してもらうことができません。

国民年金には厚生年金のように扶養という制度がないため、自営業者の妻や夫も自分で国民年金保険料を支払います。
将来受け取る年金も自分で支払った保険料に応じた額となるため、そもそも将来受給できる年金額に夫婦間で差が生じることがありません。
そのため、夫婦のいずれも厚生年金に加入したことがない(=会社員や公務員になったことがない)場合は、離婚をしても年金分割はできないのです。

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合意分割と3号分割

年金分割の割合を決める方法は、次の2つに分けられます。

合意分割とは

夫婦が話し合って保険料の分割割合を決めるか、裁判所で分割割合を決定してもらう方法で、上限は1/2と定められています。
たとえば、夫が第2号被保険者、妻が第3号被保険者の場合は、夫が婚姻期間中に支払った厚生年金の保険料を夫婦で分割することができます。
このとき、妻が支払ったことにできる保険料の割合は最大1/2となるため、夫が3割、妻が7割といった分け方はできません。

3号分割とは

夫婦の一方が第3号被保険者である場合に適用される年金分割の制度です。
配偶者が第2号被保険者で婚姻期間中に厚生年金を支払っていた期間があれば、その期間に相当する厚生年金保険料に関しては、相手の合意なく自動的に1/2が第3号被保険者の支払った保険料とみなされます。

ただし、3号分割を適用できるのは2008年4月1日以降の婚姻期間に相当する部分のみです。
2008年3月31日以前の婚姻期間に厚生年金保険料の支払いがある場合、その期間に相当する保険料は合意分割で分けなければなりません。

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年金分割の事例

毎月支払う厚生年金保険料の金額は、月収(標準報酬月額)とボーナス(標準賞与額)に応じ、一定の保険料率をかけて計算されます。
そして、支払った保険料に対して、将来受け取る老齢厚生年金の金額が決まります。

ここではボーナスをないものとして、標準報酬月額から、離婚時の年金分割により夫婦のそれぞれがどれくらい厚生年金保険料を支払ったことになるのかを見ていきましょう。

【事例1】夫が会社員(第2号被保険者)、妻が専業主婦(第3号被保険者)の場合

  • ・夫婦が結婚したのは2008年4月1日以降であり、3号分割が適用されるものとします
  • ・婚姻期間を10年間とします(全期間で厚生年金の支払いがあったものとする)
  • ・夫の標準報酬月額を30万円とします

<年金分割による夫の受給額>
3号分割の適用により、夫が婚姻期間10年の間に支払った保険料は1/2となるため、夫が将来受け取ることのできる老齢厚生年金の受給額は、月収30万円×50%×10年間分=月収15万円×10年間に応じた金額となります。

<年金分割による妻の受給額>
第3号被保険者である妻は自身で厚生年金を支払っていないため、離婚時に年金分割をしなければ、将来もらえる老齢厚生年金は0となり、受給できるのは老齢基礎年金(20~60歳の間に支払った国民年金の保険料額に応じて支払われる年金)のみとなります。
しかし、離婚時に年金分割を行った場合、婚姻期間の10年間に関しては、月収15万円に相当する厚生年金保険料を支払ったことになり、将来は老齢基礎年金にプラスしてこれに応じた老齢厚生年金を受け取ることが可能です。

【事例2】夫も妻も会社員(第2号被保険者)の場合

  • ・合意分割により、夫の分割割合を6割、妻の分割割合を4割とします
  • ・婚姻期間を10年間とします(夫婦のいずれも全期間で厚生年金の支払いがあったものとする)
  • ・夫の標準報酬月額を50万円とします
  • ・妻の標準報酬月額を20万円とします

<年金分割による夫の受給額>
夫婦のどちらも婚姻期間中に厚生年金を支払っていた場合は、夫婦の標準報酬月額を合算し、最大1/2の割合で分割します。

本事例では、夫が将来受け取ることのできる老齢厚生年金の受給額は、月収(50万円+20万円)×60%×10年間分=月収42万円×10年間に応じた金額となります。

<年金分割による妻の受給額>
一方、妻が将来受け取ることのできる老齢厚生年金の受給額は、月収(50万円+20万円)×40%×10年間分=月収28万円×10年間に応じた金額です。
婚姻していた10年間、もともと妻には20万円の月収しかありませんが、年金分割を行えば、28万円の月収がある人と同じだけ厚生年金保険料を支払ったことになり、その分将来にもらえる老齢厚生年金の額も増えるわけです。

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年金分割の手続きの進め方

離婚に際して財産分与を行うときは、協議離婚であれば、お互いの取り決めに従って自由に財産を分けることができます。
しかし、年金分割では、ただ夫婦間で分割割合を決めて合意書を作成するだけで自動的に年金が分割されるわけではなく、合意分割でも3号分割でも、必ず年金事務所での手続きが必要です。

3号分割の場合、配偶者の合意は必要なく、第3号被保険者であったほうが単独で年金事務所にて年金分割の手続きを進められます。
一方、合意分割の場合、相手の合意なしに一方の独断で年金分割の手続きを進めることはできません。
離婚に際して年金を分割したい場合は、まずは夫婦で話し合って分割の割合を決定し、合意書を作成してから年金事務所での手続きを進めましょう。

お互いに自分の取り分に納得が行かなければ、離婚調停や裁判で年金の分割割合を決めることになります。
ただし、調停や裁判といった家庭裁判所を介した手続きでは、特別な事情がない限り、分割割合は1/2と定めるのが通例です。

まとめ

年金分割は「配偶者がもらえる年金をそっくりそのまま、半分自分のものにできる」という制度ではありません。
そのため、婚姻期間が短い夫婦では、離婚時に年金分割を行っても思ったより将来の年金額が増えなかった、というケースもあります。

反対に、熟年離婚の夫婦では、状況によっては年金分割により離婚後の生活の安定が図られる可能性もあるでしょう。
年金分割の考え方は非常に複雑ですから、離婚を考えたらまずは、弁護士などの法律の専門家へご相談ください。

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記事を監修した弁護士
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弁護士 
(第二東京弁護士会)
京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。
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