家族の形は多様化しており、内縁関係のまま暮らす人も少なくありません。
では、内縁の妻や内縁の夫とは、どのような関係を指すのでしょうか?
また、内縁関係となる場合、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
今回は、内縁関係となる場合の注意点や内縁関係となる主な理由などについて、弁護士がくわしく解説します。
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「内縁の妻」や「内縁の夫」とは
内縁の妻や内縁の夫とは、役所に婚姻届を出さないまま、通常の夫婦と同じように生活をしているパートナーのことです。
法律上の夫婦ではないものの、遺族年金など一部の制度においては夫婦として扱われます。
なお、法律婚は現在の日本では男性と女性でしか認められませんが、内縁関係は同性カップルであっても異性のものと同様に認められる場合があります。
内縁関係になる主な理由
婚姻届を出さず、内縁関係のまま暮らしている理由には、さまざまなものが存在します。
主に考えられる理由としては、次のものが挙げられます。
法律婚ができない事情があるから
内縁関係となる理由の1つ目は、法律婚ができない事情があることです。
たとえば、同性パートナーである場合が代表的なケースでしょう。
また、法律上の配偶者との関係は破綻しているものの、籍が抜けていないため再婚ができない場合もあります。
相続権を発生させたくないから
婚姻届を出して法律上の夫婦となれば、お互いに相続人となり、相続権が発生します。
そのため、お互いに相続権を発生させないために、あえて内縁関係とする場合も存在します。
この理由から、以前の婚姻で子がいるために内縁関係を選択するケースが考えられます。
遺産は子へ相続させたいとの考えから、相手とは婚姻関係を結ばないまま内縁パートナーとして暮らすというものです。
また、比較的財産の少ない側が、相手の子などから遺産目当てと思われないよう、あえて内縁関係を希望する場合もあるでしょう。
お互いに従前の姓を変えたくないから
令和4年11月現在の日本では、夫婦別姓は認められていません。
そのため、法律上の夫婦となるためには、夫婦のうちいずれかが姓(名字)を変更する必要があります。
そのため、お互いに従前の姓を変えたくない場合に、法律婚という選択を取らず、内縁関係としているケースもあるでしょう。
法律婚に縛られたくないから
当人同士の考えとして、法律婚に縛られたくないとの想いから、あえて内縁関係とする場合もあるでしょう。
ただし、内縁関係だからといって一方的な都合でいつでも自由に「離婚」ができるわけではありません。
これについては、後ほどくわしく解説します。
内縁の夫婦となる場合の注意点
内縁の夫婦には、法律婚と異なる点が存在します。
そのため、内縁関係となる場合には、次の点に注意しましょう。
お互いに相続権がない
先ほども触れたように、内縁の妻や内縁の夫には相続権がありません。
相手が先に亡くなった場合、相手の財産は次の人が承継します。
- 相手の法律上の配偶者(順位はなく、別枠扱い)
- 第一順位:相手の子(子が先に他界している場合は、亡くなった子の子である孫)
- 第二順位:相手の両親や祖父母
- 第三順位:相手の兄弟姉妹(兄弟姉妹が先に他界している場合は、亡くなった兄弟姉妹の子である甥姪)
つまり、相手が亡くなったとしても、内縁の妻や夫は原則として財産を何ら承継できないということです。
なお、相続には「特別縁故者」という概念があり、内縁の妻や夫はこれに該当する可能性があります。
しかし、特別縁故者として相続財産の分与を受けることができるのは、相手に相続人が誰一人いない場合のみです。
仮に相手に相続人となる人が一人でもいれば、たとえその人と長年連絡を取っていなかったとしても、それだけを理由に特別縁故者へ権利が回ってくるわけではありません。
特別縁故者として相続財産の分与を受けることができる場面は非常に限定されていますので、注意しましょう。
入院時などの手続きで困る可能性がある
通常、法律上の夫婦であれば、入院時の手続きや手術への同意などを代わりに行うことが可能です。
しかし、内縁関係の場合には、これらの手続きを行えない可能性があります。
内縁関係は公的な書類での証明が難しく、また名字が異なることも多いため、病院側で本当に内縁の夫婦であるのか(はたまた何かを企んでいる他人なのか)の判断が困難であるためです。
子どもの姓は母側の姓となる
内縁関係の夫婦の間に子が生まれた場合、子どもはまず母側の戸籍に入り、自動的に母側の名字となります。
子どもが母のお腹から生まれる以上、母子関係は明白である一方で、母に法律上の夫がいない以上、子どもの父親が誰であるのかについて法律上の推定が働かないためです。
そのため、何ら手続きをしなければ子どもは内縁の夫の子どもとはならず、法律上は他人となります。
つまり、この時点では、扶養義務などはありません。
その後、内縁の夫が子どもを認知することで、ようやく法律上も親子として取り扱われることとなります。
また、認知をしたことを理由に自動的に子ども名字が父の名字になるわけではありません。
仮に子どもの名字を父側のものとしたければ、家庭裁判所の許可を得たうえで、戸籍法の定める届け出をする必要があります。
税務上の配偶者としては扱われない
法律上の配偶者は、税務上さまざまな場面で優遇されています。
たとえば、毎年かかる所得税の計算上「配偶者控除」や「配偶者特別控除」の対象とすることができるほか、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産などの贈与が行われた場合には2,000万円まで贈与税の対象から控除されます。
また、相続で財産を受け取った場合にも、1億6,000万円または法定相続分のどちらか大きい金額までは相続税が非課税です。
しかし、これらはいずれも、「法律上の」配偶者のみが恩恵を受けられる制度です。
内縁関係の場合には税務上の配偶者としては扱われず、配偶者であることを前提とした特例などの適用を受けることができません。
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内縁の夫婦となる際に行っておくべき準備
先ほど解説したように、内縁の夫婦にはさまざまなリスクや注意点が存在します。
しかし、内縁関係となるにあたってあらかじめ準備をしておくことで、リスクを低下させることができるでしょう。
内縁関係となるにあたって講じておくべき主な対策は、次のとおりです。
お互いの意見のすり合わせ
内縁関係となる際には、あらかじめお互いの意見をよくすり合わせておきましょう。
すり合わせておくべき主な内容は、次のとおりです。
これらについて話し合いをしたうえで、相手の考えが自分と同じであるのか、自分とは異なるが受け入れられる内容なのか、それとも内縁関係となること自体を見送るべきなのか、あらかじめよく検討しておきましょう。
内縁関係についての考え方
内縁関係を始める際には、ずっと内縁関係のままとするつもりであるのか、何らかのタイミングで法律婚をするつもりがあるのかなどについて話し合っておきましょう。
たとえば、次のような内容です。
- 名字が変わることを避けるために法律婚をしないのであれば、今後夫婦別姓とできるよう法改正がされたら法律婚をするのか
- 以前の配偶者と籍が入ったままなのであれば、今後籍を抜いて法律婚をするつもりがあるのか
- 法律婚に縛られたくないことが理由である場合に、具体的にどのような縛りを受けたくないのか(たとえば、相手の親の介護を避けたいのか?別の人とも自由に恋愛がしたいのか?)など
子どものこと
内縁関係となる場合には、子どもについての考え方をよくすり合わせておきましょう。
たとえば、子どもを持つつもりがあるのかどうかや、子どもの養育費はどちらがどの程度負担するのかといったことなどです。
なお、内縁関係となる場合には、子どもを作る予定がない場合も少なくありません。
しかし、その場合であっても、もし予期せず妊娠をしたらどうしたいと考えているのか、話し合っておくべきでしょう。
生活費のこと
内縁関係となる場合には、生活費の負担についてもよく話し合っておきましょう。
通常時についてはもちろんのこと、仮に一方が病気やケガなどで働けなくなった場合などについても話し合っておくべきでしょう。
相続対策
先ほども解説したように、内縁の夫や内縁の妻には、相続権が一切ありません。
そのため、内縁関係となる場合には、万が一に備えて相続対策を講じておくべきでしょう。
まず必須であるといえるのが、遺言書の作成です。
遺言書があれば、相続人ではない内縁のパートナーに対しても、財産を渡すことが可能となります。
また、生命保険への加入も検討するとよいでしょう。
内縁のパートナーを受取人とできるかどうかは保険商品によって異なりますが、内縁のパートナーを受取人とできる保険商品も存在します。
任意後見契約の締結
パートナーが入院することとなった場合、内縁の妻や夫は代わりに入院契約を締結できず、困った事態となる可能性があります。
他にも、相手が認知症となった場合の介護契約の締結や相手の入院費を捻出するための預金の引き出しなど、さまざまな場面で不都合が生じかねません。
そのような事態に備えて、任意後見契約の締結を検討するとよいでしょう。
あらかじめ任意後見契約を締結しておくことで、万が一の際の手続きをスムーズに代行することが可能となります。
世帯主変更届の提出
内縁関係であることは戸籍謄本には記載されません。
しかし、市区町村役場に世帯変更届を提出することで、住民票の世帯を同じとすることは可能です。
内縁関係の証明方法を確保するため、住民票の世帯主変更届を提出しておくとよいでしょう。
内縁の夫婦の「離婚」は簡単?
内縁の夫婦は、そもそも法律上の婚姻をしていません。
では、パートナーシップの解消は法律婚と比較して簡単なのでしょうか?
最後に、内縁の夫婦の「離婚」について解説します。
離婚届の提出は不要
内縁関係である以上、パートナーとなるにあたって婚姻届などは提出していないはずです。
そのため、パートナーシップの解消にあたって、離婚届を提出する必要はありません。
この点のみでいえば、法律婚よりも「離婚」は簡単であるといえるでしょう。
財産分与は必要となる
財産分与とは、婚姻期間中に増加した夫婦の財産を、離婚に伴って清算する制度です。
財産分与の割合は原則として2分の1ずつであり、たとえ外部から収入を得ていたのが夫婦の一方のみであり、もう一方が専業主婦(夫)であったとしてもこの割合は変わりません。
なぜなら、相手の内助の功があったからこそ、夫婦のもう一方が外部からの収入を得られたと考えられるためです。
法律婚の夫婦が離婚をする場合はもちろん、内縁関係を解消する場合にも財産分与の対象となります。
お互いに財産分与をしないことに合意をしたうえで円満に内縁関係を解消するのであれば、それで構いません。
しかし、一方が財産分与を求めて調停や裁判などを申し立てた場合には、財産分与が認められる可能性が高いでしょう。
状況によっては慰謝料が必要となる
相手方がパートナーシップの解消を望んでいないにもかかわらず、一方的に家を出た場合や、いわゆる不倫行為に及んだ場合などには、相手から慰謝料などの支払いを求めて調停や裁判を提起される可能性があります。
内縁関係であるからといって、相手を蔑ろにしてよいわけでも、一方的にパートナーシップを解消してよいわけでもありません。
そのため、内縁関係であったとしても一方的な関係解消や不貞行為をした場合には、慰謝料請求が認められる可能性が高いでしょう。
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まとめ
内縁関係となる理由はさまざまであり、それぞれに異なる事情が存在することでしょう。
ただし、内縁関係は法律婚と比べて保護の程度が弱く、特に相続の場面では不利益を被りかねません。
そのため、内縁関係となる際にはあらかじめリスクを知ったうえで、遺言書の作成など万が一に備えた対策を講じておくことが必要です。
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