離婚の際には、未成年の子どもの親権者や監護権者を決めることとなります。
では、親権者と監護権者は、分けることができるのでしょうか?
また、親権者や監護権者は、どのような基準で決まるのでしょうか?
今回は、親権者や監護権者について弁護士が詳しく解説します。
目次
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親権には「財産管理権」と「監護権」が含まれる
親権とは、未成年の子どもの利益のために監護や教育を行ったり、子の財産を管理し、子の代理人として法律行為をしたりする権利であり、義務です。
親権は、大きく「財産管理権」と「監護権」に分類できます。
はじめに、それぞれの概要について解説します。
財産管理権とは
親権のうち「財産管理権」とは、子どものために財産を管理したり、子どもの法律行為を代理したり同意したりする権利をいいます。
財産管理権には、次の3つが含まれます。
- (狭義の)財産管理権
- 代理権
- 同意権
- 取消権
(狭義の)財産管理権
1つ目は、狭義の財産管理権です。
狭義の財産管理権とは、未成年である子どもの財産を管理する権利義務を指します。
財産を管理するとはいえ、専門家などが他者の財産を管理する際に求められる「善管注意義務」までは要求されず、自分のものと同程度の注意である「自己のためにするのと同一の注意」を払うことでよいこととされています(民法827条)。
とはいえ、財産管理は子どもの利益のために行うものであり、子どもの財産を親が自分のために自由に使ってよいということではありません。
代理権
2つ目は、法律行為の代理権です。
法律行為の代理権とは、子の財産に関する法律行為について子を代表する権利を指します。
たとえば、未成年者が当事者となり第三者と契約を締結する際に、親権者は、未成年者に代わって、第三者と契約をする権利を有します。
同意権
3つ目は、法律行為への同意権です。
法律行為への同意権とは、未成年者が法律行為をするにあたって同意をする権利です。
未成年者は原則として自分1人で有効な契約を締結することができず、契約を有効に締結するには法定代理人の同意を得なければなりません(同5条1項)。
なぜなら、未成年者は判断能力が未成熟であり、自由に契約の締結などすれば騙されるなどして不利益を被る可能性が高いためです。
取消権
4つ目は、法律行為の取消権です。
法律行為の取消権とは、未成年者が親権者の同意を得ることなく行った法律行為を、取り消すことができる権利です。
未成年者が親権者の同意を得ずに法律行為をした場合はその法律行為を取り消すことが可能であり(同5条2項)、親権者も取消権を有します。
監護権とは
親権のうち監護権とは、子どもの身の回りの世話や教育などをする権利・義務のことです。
監護権には、次の2つが含まれます。
- 居所指定権
- 職業許可権
なお、以前は「懲戒権」との規定があり、これも監護権に含まれると解されていました。
しかし、児童虐待が社会問題となっていることを受け、2022年12月に施行された民法の改正法よって懲戒権に関する規定は削除されています。
居所指定権
1つ目は、居所指定権です。
居所指定権とは、子どもが住む場所を指定する権利です(同821条)。
親権者は子どもを適切に監護し養育する義務があることから、これを実現するために居所を指定することが可能とされています。
職業許可権
2つ目は、職業許可権です。
職業許可権とは、子どもが職業を営むことを許可する権利です(同823条)。
子どもがその営業に堪えることができない事由があるときは、許可を取り消したり制限したりすることもできるとされています。
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親権と監護権は分けられる?
さまざまな事情から、親権者と監護権者を分けたいと考えることもあるでしょう。
では、監護権のみを親権から切り出して、親権者と監護権者とを分けることはできるのでしょうか?
ここでは、順を追って解説します。
分けることはできるが裁判所は慎重
夫婦間で合意することができるのであれば、親権者と監護権者とを分けること自体は可能です。
その場合、子どもと一緒に暮らす側が監護権者となり、もう一方が親権者となることが多いでしょう。
ただし、離婚届には親権者を記載する欄はある一方で、監護権者を書く欄はなく戸籍にも記載されません。
後になって親権者からそのような合意をした覚えはないなどと主張されないよう、夫婦間の合意で親権者と監護権者を分ける場合は、書面でしっかりと取り決めしておくようにしてください。
裁判所は、親権者と監護権者とを分けることに対して慎重であるといわれています。
そのため、夫婦間で親権についての合意ができず裁判にまでもつれ込んだ場合は、親権者と監護権者とは原則として同一となります。
親権と監護権を分けるメリット
親権者と監護権を分けるメリットは、夫婦の双方が親権を主張している場合の妥協策となることで、早期の解決を図りやすくなることです。
未成年の子どもがいる場合、親権者が決まらないことには離婚を成立させることはできません。
親権者と監護権者を分けることとすることで合意できる可能性が高まり、早期に離婚を成立させやすくなります。
また、通常どおり親権者と監護権者を同一とすると、親権を持たなかった側において親としての意識が薄れやすくなります。
一方が親権者に、一方が監護権者となることで、離婚後も父母がともに親としての意識を持ち続けやすくなることもメリットだといえます。
親権と監護権を分けるデメリット
親権者と監護権者を分ける最大のメリットは、子どもが法律行為や身分行為をするに際して、元配偶者と連絡を取るべき場面が増えることです。
親権者と監護権者を分ける場合、同意権などを有するのは親権者であり、子どもと同居していることの多い監護権者には同意権などがありません。
そのため、たとえば子どもが事故の被害に遭った場合など法律行為をする必要が生じた際に、親権者がスムーズに手続きに協力してくれず、手続きが遅延するおそれがあります。
また、監護権者が再婚をして子どもを再婚相手の養子にしたい場合、子どもが15歳未満である場合は、親権者が代諾することとなります(民法797条)。
この場合において親権者が養子縁組に同意しないと、その時点では養子縁組を実現することができません。
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親権者や監護権者はどう決まる?
親権者や監護権者は、誰がどのように決めるのでしょうか?
ここでは、親権者や監護権者の決め方について順を追って解説します。
夫婦間の話し合いで決める
親権者や監護権者は、夫婦間の話し合いによって決めることが原則です。
夫婦間で話し合いがまとまれば、話し合いの結果を離婚届の所定の欄に記載するだけで、親権者が確定します。
先ほども解説したように、親権者は離婚届に記載する欄があり子どもの戸籍にも掲載される一方で、監護権者は離婚届への記載欄はなく戸籍にも掲載されません。
そのため、夫婦間の取り決めのみによって親権者や監護権者を決めた場合は、後から「言った・言わない」のトラブルとならないよう、書面を取り交わしておくとよいでしょう。
書面の記載方法がわからない場合や不安がある場合は、弁護士へご相談ください。
調停で決める
夫婦間で話し合いがまとまらない場合は、調停で決めることとなります。
調停とは、家庭裁判所の調停委員が当事者から交互に意見を聞く形で進行する話し合いです。
裁判所が関与するものの、あくまでも話し合いを仲介してくれる手続きであるため、調停の成立には夫婦の合意が必要です。
夫婦の意見が真っ向から対立している場合であっても、原則として調停を経ずにいきなり裁判を申し立てることはできません。
離婚に関する事件は、裁判の前に調停で解決を図るべきとする「調停前置主義」がとられているためです。
裁判で決めてもらう
調停が不成立となった場合は、裁判を申し立てて解決を図ります。
裁判では、諸般の事情を考慮したうえで、どちらが親権者として相応しいか裁判所が結論を下すこととなります。
裁判所の出した判決に不服がある場合、判決文の送達を受けた日の翌日から2週間以内に控訴をすることができます。
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親権者や監護権者を決める判断基準
裁判所が親権者や監護権者を決める際は、どのような基準で判断されるのでしょうか?
ここでは、主な判断基準について解説します。
先ほど解説したように、裁判となった場合は親権者と監護権者は原則として同一人となります。
これまでの監護状況
親権者を決める際にもっとも重視されるポイントの一つは、これまでの監護状況です。
裁判所は、親の離婚によって子どもの環境がこれまでと大きく変わらないことを望ましいと考えます。
この観点から、これまで主に育児を担ってきた側が親権獲得において有利となることが一般的です。
なお、「親権獲得では母親が有利である」といわれることがあります。
しかし、子どもが母乳を飲んでいる乳児であるなど一定の場合を除き、性別によって有利・不利があるわけではありません。
とはいえ、実際には母親が親権者となるケースが多いのが現状です。
これは、単に「母親だから」との理由で選ばれているのではなく、日本では未だ母親が育児をメインで担うことが多いため、結果的にこれまで主に育児をしてきた母親が親権者として判断されているにすぎません。
そのため、これまで育児を主に担ってきたのが父親である場合は、父親が親権者として判断される可能性が高くなります。
今後の生活環境
親権者を決める際は、今後の生活環境も重視されます。
たとえば、今後子どもと過ごす時間がとれるかどうか、親権者が健康であり適切な養育や監護ができるかどうかなどです。
面会交流への柔軟さ
裁判所は、子どもの健全な成長のためには、離婚後も、別居している親が子どもと面会等を行っていくことが望ましいと考えています。
そのため、面会交流の柔軟さも、親権者の判断に影響します。
周囲のサポート体制
親権者を決めるにあたっては、周囲のサポート体制も考慮されます。
親権者はできるだけ子どもとの時間を確保できるのが望ましいとはいえ、子どもを育てるには仕事もしていかなければならず、四六時中ともに過ごすことは現実的ではありません。
そこで、周囲のサポート体制も含めて適切な親権が行われる見込みであるかどうかが判断されます。
子ども自身の希望
子どもがおおむね10歳以上である場合は、親権者を決めるにあたって子ども自身の希望も斟酌されます。
中でも、子どもが満15歳以上の場合は家事事件手続法の規定によって子どもから意見を聴取すべきこととされており、原則として子どもの希望に従って親権者が決まります。
たとえ未成年であっても、15歳以上ともなれば、親権者の希望についてある程度適切に判断できる可能性が高いと考えられるためです。
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親権や監護権を獲得するためのポイント
夫婦がともに親権獲得を希望している場合において、親権者や監護権者となるためには、どのようなポイントを踏まえればよいでしょうか?
最後に、親権者や監護権者となるためのポイントを3つ解説します。
弁護士へ相談する
親権や、少なくとも監護権を確実に得たい場合は、離婚や親権に詳しい弁護士へご相談ください。
弁護士へ相談することで、親権が獲得できそうかどうかの見通しが立てやすくなるほか、ケースに応じた具体的な戦略や必要な証拠などについてもアドバイスを受けることができるためです。
証拠を提示する
親権獲得を有利に進めるには、適切な証拠を提示することです。
裁判ではもちろん、調停であっても証拠があることで有利に進行できる可能性が高くなります。
親権獲得に有利なる証拠とは、たとえばこれまでの育児日記や母子手帳の記録などが挙げられます。
また、配偶者が子どもを虐待していた場合は、病院の受診記録や警察への相談記録なども重要な証拠となります。
とはいえ、適切な証拠は状況によって異なります。
そのケースにおいて提示すべき具体的な証拠が知りたい場合は、弁護士へご相談ください。
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まとめ
親権は、財産管理権と監護権とに分けられます。
夫婦間で合意がまとまるのであれば、親権者と監護権者を分けることも可能です。
ただし、親権者と監護権者を分けることにはデメリットもあります。
そのため、弁護士へ相談しデメリットを十分理解したうえで、親権者と監護権者を分けることが本当に適切であるかどうか慎重に検討するとよいでしょう。
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