婚姻費用分担請求とは?請求の方法・ポイント

婚姻費用分担請求とは

婚姻費用とは、衣食住にかかる費用をはじめ、交際費や医療費、子どもの教育費といった、夫婦やその子どもが共同生活を送るうえで必要な費用の総称です。
婚姻費用というと聞きなれない言葉かもしれませんが、「夫婦が結婚している間の生活費」と考えればよいでしょう。

夫婦には法律上、お互いに守るべきさまざまな義務があります。
その中で婚姻中の生活費にかかわる義務は以下の2つです。

  1. 財産や収入などのさまざまな事情を考慮したうえで、夫婦はお互いに婚姻から発生する費用を分担する義務を負う
  2. 夫婦はお互いが同レベルの生活を営めるように配慮する義務を負う

夫婦は婚姻生活を送るうえで、お互いに同等レベルの生活を相手にもさせなければならず、子どもの生活費・養育費などを含めた婚姻中の生活費を分担する義務があります。
一般的には、収入が多い側から収入の少ない側に支払われることになります。
もし、相手が支払いに応じなければ、法律に基づいて婚姻費用の分担を請求することができます。

婚姻費用分担請求をできるケースとできないケース

婚姻費用の分担は夫婦の義務なので、たとえ夫婦の仲が悪くなったとしても、法律上、夫婦である以上、婚姻費用を支払い続けなければなりません。
しかし、法律上は夫婦であっても、婚姻費用分担請求が認められないケースもあります。
請求が認められる場合と認められない場合の具体的なケースを見ていきましょう。

婚姻費用の分担請求ができるケース

別居している場合

夫婦はお互いに同居の義務を負っていますが、相手の不貞行為、モラハラ、DVのほか、性格の不一致などが原因で一緒に暮らすことが困難になる場合があります。
しかし、たとえ同居していなくても、離婚届が受理されるまでは夫婦であることには変わりありません。
そのため、別居を理由に生活費の支払いを拒むことは原則としてできません。
自らの意思で家を出て行った側であっても、相手のほうが収入が多い場合は、相手に対して婚姻費用の支払いを請求することができます。

別居して子どもを引き取った場合

相手と自分とで社会的地位や収入に差がない、あるいは、相手よりも自分のほうに多くの収入がある場合でも、相手に婚姻費用の支払いを請求できるケースがあります。
それは、自分が子どもを監護養育しているときです。
この場合に請求できる婚姻費用は、夫婦が一方を扶養する義務というよりは、親が子どもを養う義務として発生すると考えられます。

同居していながら婚姻費用が支払われない場合

婚姻費用分担請求は、別居していなければできないものではありません。
もし同居している最中に相手から生活費がもらえなくなれば、請求が可能です。
生活費を払わないことで配偶者が困窮することを知っていながら、あえて生活費を渡さないことは、法律で定める離婚原因の1つである「悪意の遺棄」にも該当し得ると考えられます。

婚姻費用の分担請求ができないケース

別居の原因が自身にある場合

たとえば、自分の身勝手な不倫がもっぱらの原因で夫婦関係が成り立たなくなり、別居に至った場合は、たとえ相手より収入が低くても、婚姻費用分担請求は認められないか、認められても大きく減額される可能性が高くなります。
ただし、子どもを引き取っている場合、婚姻費用のうち子どもの養育費や教育費にあたる部分は、自身に非があるかないかにかかわらず、請求することが可能です。

婚姻費用分担請求の方法

婚姻費用の額は、まず夫婦間の話し合いで決定します。
相手が婚姻費用の支払いに応じない、または話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所へ婚姻費用分担請求調停を申し立てます。
この調停の申し立ては、離婚原因の有無にかかわらず、夫婦の双方が可能です。

婚姻費用の分担請求調停の流れ

調停では、調停委員が夫婦の双方に話を聞き、夫婦が保有する資産、それぞれの収入と支出、社会的地位、子どもの年齢や人数など、さまざまな事情を把握します。
そして、これらを考慮したうえで、婚姻費用の金額などについて具体的な解決策を提示したり、場合によっては助言したりしながら、話し合いによる解決を目指します。
双方が納得すれば調停成立となり、その後は取り決めの内容を記した調停調書に従って、婚姻費用の支払いが行われることになります。

一方で、話し合いが調停でもまとまらず、調停不成立となった場合は、自動的に審判手続へ移行することになります(別途の手続の申し立ては必要ありません)。

審判とは、調停手続において把握された双方の事情や夫婦の状況などを考慮したうえで、裁判官が判断を下す制度です。
審判の決定に夫婦双方の合意は必要なく、また、審判において下された決定には執行力(強制執行ができる効力)があることも特徴です。

また、将来の婚姻費用の金額のみならず、調停申立て以降の未払い婚姻費用額についても判断されます(調停手続においても、話し合いにより未払い婚姻費用額について合意することは可能です)。

審判の決定に対して不服があれば、「即時抗告」という異議申し立てをすることができます。
即時抗告は審判の決定を受けた日の翌日から2週間以内に行う必要があり、即時抗告と同時に執行力も失います。

婚姻費用の金額の決定方法

調停での話し合いでは、お互いの収入や子どもの年齢・人数などをもとに作成された「婚姻費用の算定表」をもとに、婚姻費用の金額を決定するのが基本です。
ただし、夫婦それぞれの社会的地位や収入、別居に至った原因など、個々にあらゆる事情が考慮されるため、必ずしも算定表通りになるとは限りません。
婚姻費用の金額については、夫婦で自由に話し合うことができますが、ある程度、算定表にもとづいて金額を決定したほうが、お互いに納得しやすいでしょう。

婚姻費用を請求するタイミング

一般的に婚姻費用が支払われるのは、婚姻費用分担請求の調停の申し立てがあったときからだとされています。
そのため、それよりも前にさかのぼって婚姻費用を請求することは原則としてできません。
ただし、調停の申し立てをしていなくても、相手方に対して、明確に婚姻費用の請求を行っていれば、このときからさかのぼって請求をすることができるケースもありますので、このような場合は一度弁護士に相談されることをおすすめします。

まだ離婚までは考えていない段階だとしても、別居を考えるときは、できるだけ早く婚姻費用について夫婦で話し合うか、別居したと同時に婚姻費用の分担請求調停を申立てるなどすることが重要なポイントになります。
なお、離婚調停と同時に婚姻費用の分担請求の調停を申し立てることも可能です。

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裁判離婚に関するQ&A

生活が苦しいです。婚姻費用を早く支払ってもらうことはできますか?

調停や審判による決定を待っていられないほど生活が困窮している場合、裁判所の決定を待たずに婚姻費用を支払ってもらえるケースがあります。
具体的な手続きの方法は以下の2つです。

調停前の仮処分(家事事件手続法266条)
調停を申し立てたときから調停が終了するまでの間に可能な手続きです。
裁判所に申立書や上申書を提出し、裁判所の職権発動を促し、その内容に緊急性が認められれば、裁判所から婚姻費用を支払う側へ、支払いの勧告、または命令が下されることになります。
調停前の仮処分に強制執行力はありませんが、勧告や命令に従わなかった場合は10万円以下の過料が課せられることから、ある程度の心理的な圧力を与えることは可能です。

審判前の保全処分(家事事件手続法105条)
審判の決定が出るまでの間に可能な手続きです。
裁判所へ申立書を提出し、その内容に緊急性が認められれば婚姻費用を支払う側へ一定額の支払いが命じられるという流れは調停前の仮処分と同じです。
しかし、審判前の保全処分には執行力があり、命令に従わなかった場合は相手の給与などを差し押さえられる点が大きな特徴です。
ただし、審判前の保全処分には執行力があることから、差し迫った事情や理由がなければなりません。
婚姻費用分担請求の場合、緊急性が高まったときには調停中でも、審判への移行手続きなしに、ただちに審判前の保全処分の申し立てができます。

婚姻費用分担請求はいつからいつまでできるのですか?

相手が婚姻費用を支払う義務を負うのは、婚姻関係があることが前提です。
そのため、婚姻費用分担請求ができるのは、別居が開始されてから離婚が成立するまでの間であり、離婚の成立後は、将来に向けた婚姻費用の支払い義務はなくなります。
また、一度は別居したものの円満の方向で調整ができ、同居に戻ったときには、婚姻費用分担請求ができなくなるとするのが一般的です。

婚姻費用分担請求を行うメリットはなんですか?

相手に婚姻費用の支払いを請求する最大のメリットは、離婚に関する協議や調停・裁判を行っている間や、別居している期間に、自分と子どもの生活費を確保できることです。
また、相手が離婚すること自体に合意してくれない場合は、先に婚姻費用分担請求を行っておくことが圧力になる可能性もあります。
離婚成立までの期間が長引けば長引くほど、婚姻費用の負担も大きくなるので、早く離婚しようと思わせる効果が期待できるのです。
そのような意味でも、できるだけ早く婚姻費用分担請求の手続きを行っておくことが、離婚を有利に進めるためのポイントになるといえるでしょう。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(神奈川県弁護士会)
早稲田大学法学部卒業、早稲田大学法学部法務研究科を修了。これまで離婚、相続など個人の法律問題に関する案件を数多く取り扱い、依頼者の気持ちに寄り添った解決を目指すことを信条としている。複数当事者の利益が関わる調整や交渉を得意とする。現在は不動産法務に注力。
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