知らない間に勝手に誰かに「婚姻届」を提出されていたら、有効になってしまうのでしょうか?
婚姻届が受け付けられてしまったら、たとえ本人が納得していなくても戸籍を書き換えられます。元に戻すには裁判所での手続きを経て「婚姻の無効」を確認しなければなりません。
目次
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1.婚姻届を勝手に提出されたらどうなるか
そもそも「婚姻届を勝手に提出されることなんてあるの?」と思うかもしれませんが、そういったケースは実際にあります。
例として、昔交際していた相手が嫌がらせなどの目的で署名押印部分を偽造して婚姻届を提出し、2人が結婚している状態にされてしまうといったケースなどです。
偽造の婚姻届が提出されたとき、役所の方は本人に連絡せずに受け付けるのが一般的なので、誰かが勝手に婚姻届を提出したら、知らない間に「婚姻をした」との戸籍が反映されてしまいます。
本人が後に別の誰かと結婚しようとしたときに「既に〇〇さんと婚姻状態にあるので、結婚はできない」ことが判明し、本人が婚姻関係を初めて知るケースもあります。
また、勝手に婚姻届を提出されることによる問題は、他の人と結婚できないというだけではありません。
結婚している状態でどちらかが死亡すると遺産相続が発生するので、勝手に婚姻届けを提出した戸籍上の配偶者に財産が相続されてしまう可能性も発生します。
勝手に婚姻届を提出されているなら、早急にその結婚が無効であることを確認し、戸籍を元に戻さねばなりません。
2.婚姻無効確認調停を申し立てる
勝手に提出された婚姻届は、そもそも無効です。
日本では、婚姻が有効に成立するためには「お互いの婚姻意思」と「婚姻届の届出意思」が必要だからです。
ただし、いったん婚姻届が受け付けられてしまった以上、婚姻の無効を確認するためには裁判所での手続きが必要となります。
2-1.婚姻無効確認調停とは
婚姻を無効にしたい場合、まずは家庭裁判所で「婚姻無効確認調停」を行います。
婚姻無効確認調停とは、婚姻届を勝手に提出した相手に対し、婚姻が無効であることを確認するための話し合いをする手続きです。
話し合いで婚姻が無効であることが確認され、その合意が相当であると判断されれば、合意にもとづいて審判が出され婚姻を無効にできます。
2-2.婚姻無効確認調停を申し立てる方法と婚姻が無効になるまでの流れ
婚姻無効確認調停を申し立てる際には、まずは偽造された婚姻届の写しを入手する必要があります。
婚姻届は通常その市区町村を管轄する法務局で保管されているので、法務局に行って申請しましょう。
そして本籍地を管轄する役所で戸籍謄本を取り寄せ、調停申立書を作成し、相手の住所地の管轄の家庭裁判所で「婚姻無効確認調停」を申し立てます。
調停では調停委員と介して相手と話し合うことになります。
婚姻届の写しの署名押印と本人の署名押印が異なること等調停の席で説明し、相手に婚姻無効を確認するための合意を求めます。合意ができれば調停・審判によって婚姻の無効が確認され、審判書が作成されます。
審判書と審判確定証明書を役所に持参したら、婚姻がなかったことになり戸籍を元に戻してもらえます。
3.婚姻無効確認の訴えを提起する
3-1.婚姻無効確認の訴えとは
婚姻無効確認調停を申し立てても、相手が婚姻の無効に納得しない可能性もあります。
また相、手の連絡先が分からなくて調停を申し立てられない場合や、調停で呼出しをしても相手が無視して裁判所に来ないケースもあるでしょう。
そのようなときには、家庭裁判所で「婚姻無効確認の訴え」という訴訟を起こして解決する必要があります。
婚姻無効確認の訴えは、調停と違って話し合いの手続きではないので相手が納得しなくても、婚姻が無効であることを証明することができれば無効であるという判決を得ることができます。
3-2.相手の居場所がわからない場合の対処方法
相手の居場所がわからない場合、まずは相手の住民票を取り寄せて住所地に居住しているかどうかを確認する必要があります。
婚姻届が提出されている場合、本籍地で「戸籍の附票」を取り寄せることができるので、それを見れば相手の住民票上の住所を確認できます。
住民票の住所地を実際に見に行き、その場所に本人がいない場合には「公示送達」という方法を利用します。
公示送達が認められると、相手が裁判所に出頭しない場合でも手続きを進め、判決を出してもらえます。
3-3.婚姻無効確認の訴えで結婚を無効にするための証拠
婚姻無効確認の訴えで婚姻無効の判決を出してもらうには、婚姻が無効である「証拠」が必要です。
偽造の婚姻届と実際の本人の筆跡が異なることを示すため、法務局から取り寄せた「偽造の婚姻届の写し」と「本人の筆跡」の対比をした資料を作成しましょう。
また本人の作成した陳述書や法定での供述内容も証拠となります。
判決で婚姻無効が確認されたら、判決書と判決確定証明書を役所に持参すれば戸籍を元の婚姻前の状態に戻してもらえます。
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4.偽造された婚姻届の提出を避ける方法
いったん婚姻を無効にしても、相手によっては再度嫌がらせで婚姻届を提出してしまうかもしれません。
そのようなとき、改めて婚姻無効確認調停や訴訟をするのは大変です。
不安があるなら役所が婚姻届を受け付けないようにするため「婚姻届不受理申出」を行いましょう。
役所に行って「婚姻届不受理申出書」という書類を提出しておけば、本人の意思確認なしで婚姻届が受け付けられることがなくなります。
万一相手が勝手に婚姻届を提出しに来ても、受け付けられずに本人に連絡が来るので「受理しないでください」といえば戸籍を書き換えられずに済みます。
なお、別の人と結婚した場合はその後に相手が婚姻届を提出しようとしても受け付けられないので、婚姻届不受理申出をする必要はなくなります。
5.相手に成立する犯罪について
婚姻届を偽造したり勝手に提出したりすると、「犯罪」が成立します。
5-1.有印私文書偽造罪、行使罪
まず婚姻届で他人の署名押印部分を勝手に偽造したことは「有印私文書偽造罪」となり、その文書を役所に提出したことは「偽造有印私文書行使罪」となります(刑法159条)。
有印私文書偽造罪の刑罰は3か月以上5年以下の懲役刑、偽造有印私文書行使罪の刑罰も同様です。
5-2.電磁的公正証書原本不実記載罪
虚偽の婚姻届を提出して役所の方をだまし、間違った戸籍の書き換えをさせたことは「電磁的公正証書原本不実記載罪」という犯罪になります。
刑罰は10年以下の懲役または100万円以下の罰金刑です(刑法161条の2第2項)。
相手が悪質な場合、上記の犯罪行為にもとづいて刑事告訴を行い刑事事件にする対処方法もありえます。
5-3.ストーカー規制法違反
単なる偽造の婚姻届の提出だけではなく「つきまとい」の被害に遭っているなら、「ストーカー規制法」を適用して相手に注意してもらったり場合によっては逮捕してもらったりできる可能性もあります。
トラブルが大きくなる前に、早めに警察に相談しましょう。
婚姻届を勝手に提出される事件は、現実に発生しています。
被害に遭ったら、まずは法務局で婚姻届の写しを取得して、家庭裁判所で婚姻無効確認調停を申し立てましょう。
自分一人ではどうすれば良いかわからないときや今後の手続き等について聞きたいときなどには、弁護士に相談してみてください。
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