夫婦別姓とは、夫婦がそれぞれ婚姻前の姓を名乗ったまま婚姻をすることです。
しかし、令和4年10月現在、日本では夫婦別姓は認められていません。
今回は、夫婦別姓とするメリットとデメリットの他、夫婦別姓とする前にやっておくべきことなどについて、弁護士がくわしく解説します。
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夫婦別姓とは?
夫婦別姓とは、夫婦がそれぞれ別の姓(婚姻前の姓)を名乗ることです。
また、夫婦が別の姓を名乗ったまま法律上の婚姻ができる制度のこと自体を指すこともあります。
はじめに、日本における夫婦別姓について解説していきましょう。
日本では夫婦別姓は認められていない
令和4年10月の執筆時点では、日本における日本人同士の婚姻で、夫婦別姓は認められていません。
つまり、現在の日本で婚姻届を提出して法律上の夫婦となるためには、夫婦が同じ姓を名乗らなければならないということです。
そのため、もともと偶然同じ姓であったような特殊なケースを除き、夫か妻のいずれかは、婚姻にあたって姓を変更する必要が生じます。
現在の日本で夫婦別姓婚を実現するためには、いわゆる事実婚である内縁関係とせざるを得ないことが現状です。
夫婦別姓の実現に向けた動き
婚姻により夫婦の一方が姓を変更せざるを得ないとなれば、キャリア形成に支障が出てしまいかねません。
また、姓はアイデンティティの一つであり、婚姻によって姓を変えざるを得ないことで、自己のアイデンティティが揺らいでしまうおそれあります。
このような点などが問題視され、それぞれの夫婦がこれまでどおり同姓とするか、別姓とするかを選択できる「選択的夫婦別姓制度」の導入は、日本でもたびたび議論がされています。
たとえば、法務省では平成3年から法制審議会民法部会において、婚姻制度等の見直し審議がされており、平成8年2月には、法制審議会が選択的夫婦別氏制度の導入を提言する「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申しました。
また、令和2年12月に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画においても、夫婦の氏に関する具体的な制度のあり方に関し、国民各層の意見や国会における議論の動向を注視しながら、司法の判断も踏まえ、更なる検討を進めることとされています。
しかし、今なお、夫婦別姓制度は実現されていません。※1
ただし、選択的夫婦別姓制度については導入を願う声も多く、今後の動向が注目されています。
夫婦別姓が実現するための条件
夫婦別姓が日本で導入されるためには、主に次の2つの法律が改正される必要があります。
民法の改正
民法とは、私人の間の契約や家族のルールなどを定めた法律です。
婚姻についての基本ルールも民法が定めているため、選択的夫婦別姓制度を実現するためには、民法の見直しが必要となるでしょう。
戸籍法の改正
戸籍法とは、戸籍のルールを定めた法律です。
戸籍法も夫婦は同じ姓を名乗ることが前提として制度が作られているため、選択的夫婦別姓を実現するためには、改正が必要となるでしょう。
夫婦別姓にするメリット
夫婦別姓制度では、夫婦がいずれも婚姻前の姓を引き続き名乗ることができ、改姓を余儀なくされたことによる自己喪失感、不平等感などがなくなります。
では、夫婦別姓には、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?
仕事に支障が出ない
夫婦別姓のメリットとして、仕事に影響を与えないという点があります。
これまでは、結婚を機に妻が、夫の氏に変更することが圧倒的に多かったため、改姓により、信用、実績を断絶されることもありました。
また、女性が職場で事実上、旧姓を使用していたとしても、書類などの記載には戸籍上の姓を記載しなければならないため、混乱を生じさせるおそれもありました。
そのため、夫婦別姓とすると、これまでの信用、実績に影響もなく、戸籍上の氏名と職場の通称がずれるという不自由から解消されることが期待されます。
公的な手続きが不要になる
夫婦別姓には、公的な手続きが要らなくなるというメリットもあります。
夫婦別姓になれば、改姓に伴う手続きが不要になるため、免許証、パスポートといった公的なものから、携帯電話やハンコ、クレジットカード、銀行口座といった私的なものを含めて各種手続きをする必要がなくなります。
フラットな夫婦関係を築きやすい
夫婦が同じ姓を名乗らなければならない現状では、原則として夫婦のいずれかが姓を変更しなければなりません。
これは、「相手に家に入る」という古来の婚姻をイメージさせ、名字を変えた側が不公平感を抱きやすいといえます。
名字の変更がすなわち上下関係を意味するわけではありませんが、夫婦別姓を選択することで、よりフラットな夫婦関係を築きやすくなるといえるでしょう。
周囲の人に婚姻や離婚が知られにくい
婚姻によって姓を変えた側は、たとえ周囲に婚姻や離婚などのプライベートを開示したくなかったとしても、名字が変わったことで意図せずプライベートが知られてしまいます。
夫婦別姓となれば、いずれも名字を変更しないまま婚姻することが可能となるため、名字の変更からプライベートを推測されることがなくなるでしょう。
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夫婦別姓にするデメリット
夫婦別姓を選択するデメリットには、どのようなものがあるのでしょうか?
主なデメリットは、次のとおりです。
子どもの名字の問題が残る
選択的夫婦別姓制度が導入された後においても、子どもの名字については課題が残ります。
子どもがどちらの姓を名乗るのか、または夫婦の姓をつなげて名乗ることとなるのかなどです。
選択的夫婦別姓制度が実現するとなれば、この点についてもより議論されていくことでしょう。
家族についての価値観が揺らぐ可能性がある
選択的夫婦別姓制度が導入されることで、家族についての従来の価値観が揺らぐとの指摘もあります。
一つの家族内で名字の異なる人がいることで、家族の一体感が失われかねないとの指摘などです。
現行制度のもとではいわゆる内縁関係となる
先ほども解説したように、現在の日本においては、日本人同士の婚姻で別々の姓を名乗ることはできません。
そのため、現在の制度のもとで夫婦別姓を実現しようとすれば法律婚をすることはできず、内縁関係とならざるを得ないでしょう。
法律婚の夫婦と違い、内縁関係にはさまざまなデメリットが存在します。
内縁関係の主なデメリットは、次のとおりです。
- 子どもは自動的に母の戸籍に入り、認知しないと父との親子関係が発生しない
- お互いに相続権がない
- 配偶者控除など税務上の優遇が受けられない
- 医療行為などへの同意が困難である
現在の日本で夫婦別姓婚をするためには、このようなデメリットを受け入れざるを得ないということです。
夫婦別姓にする前にやっておくべきこと
選択的夫婦別姓制度が導入されていない現在の日本において夫婦別姓婚をする場合には、内縁関係とならざるを得ません。
そのため、あらかじめ次の対策を講じておきましょう。
夫婦間での意見のすり合わせ
もっとも重要なのは、夫婦間での意見のすり合わせです。
なぜなら、内縁関係について持つイメージが、人によって異なる場合があるためです。
たとえば、夫婦の一方としては選択的夫婦別姓制度が導入されていないがゆえに、制度導入が実現するまで一時的に内縁関係とするのみであり、実質的には夫婦同然であると考えていても、もう一方にとっては単なる同棲期間の延長のように軽く捉えている可能性もあるでしょう。
このすり合わせができていなければ、いざ選択的夫婦別姓制度が導入されて婚姻届けを出そうというときになって、相手から拒まれトラブルとなるおそれがあります。
また、他に好きな相手ができたなど安易な理由から出て行かれてしまう可能性もあるでしょう。
そのため、夫婦別姓制度がないことを理由に内縁関係を結ぶ際には、しっかりとお互いの意見をすり合わせておくことが必要です。
子どもについての話し合い
子どもについてのことも、あらかじめしっかり話し合っておくべきでしょう。
そもそも、子どもを持つつもりがあるのかという点をはじめ、仮に子どもを持つ予定がないなかで妊娠をしたらどうするのか、子どもができたら仮に名字を変えてでも法律婚をする気はあるかどうかといったことなどです。
また、子どもも名字や養育費にかかる費用などについても検討しておかなければなりません。
遺言書の作成
内縁関係の夫婦には、相続権が一切ありません。
仮に相手に相続人が誰もいなければ「特別縁故者」に該当し遺産の一部を受け取れる可能性はあるものの、相続人の範囲は最大で甥姪までが含まれ非常に広いため、誰も相続人がいないというケースはさほど多くないでしょう。
そのため、万が一の事態に備え、お互いに遺言書を作成しておくことをおすすめします。
遺言書を書いておけば、相続人ではない内縁の相手に対しても、財産を渡すことが可能となるためです。
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まとめ
夫婦別姓制度はまだ導入されていませんが、世界的な男女平等の機運の高まりによって、導入が積極的に検討されています。
もっとも、日本では「家制度」の風習が根強く、制度の導入に対する抵抗感もまだまだ強いのが現状です。
夫婦別姓制度によって、仕事をしている女性が、結婚してもより一層働きやすい環境となり、結婚に対して前向きになれる効果も期待できるでしょう。
また、万が一、離婚に至ってしまった場合にも、氏が変わらないため、職場から必要以上にプライバシーに踏み込まれるリスクも低減できます。
いずれにしても、夫婦別姓制度が導入された場合に、夫婦別姓を選択するかどうかは、夫婦で丁寧に話し合いをするべきです。
現在は、夫婦別姓制度が導入されていないため、婚姻時に姓を変更した場合は、離婚時には、旧姓に戻すか、婚姻時の姓を名乗るか選択することになります。
弁護士にご相談いただければ、離婚後の手続きについて、具体的にご説明いたします。
また現在、夫婦別姓が法的に認められていないことから、「事実婚」のご夫婦もいらっしゃると思います。
事実婚のご夫婦についても、事実婚の解消時(離婚時)には、離婚協議をし、離婚の条件について取り決めをすることが大切です。
弁護士にご相談いただければ、離婚の進め方や、取り決めるべき離婚の条件について、具体的にアドバイスすることができます。
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どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献:
※1 法務省:選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について
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