コラム
公開 2019.05.16 更新 2024.02.24

働けないうつ病の夫と離婚できる?慰謝料はもらえる?

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現代のストレス社会ではうつ病の人が増えているとメディアで報じられています。
もし夫がうつ病になり仕事ができなくなった場合、家庭生活にも大きな影響がおよび崩壊することもあり得ます。
うつ病を発症し働けなくなった夫と離婚できるのか、また慰謝料を請求できるのかについて解説します。

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※この記事は慰謝料請求をしたい方に向けて書いております。
 慰謝料請求を受けてお困りの方はこちらのページをご確認ください。

うつ病を理由に離婚したい場合、該当する離婚事由は?

離婚をする場合、その理由が民法770条で定められた離婚事由に該当しなければなりません。

  • 民法第770条
    第一項 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
  • 一 配偶者に不貞な行為があったとき。
  • 二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
  • 三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
  • 四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
  • 五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

配偶者のうつ病が理由で離婚したい場合は、「四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」の条項が該当します。
うつ病の状態が「強度の精神病」であり「回復する見込みがない」かが調停や裁判で争点になります。

回復見込みのない強度の精神病でも離婚は難しい?

配偶者のうつ病が「回復見込みのない強度の精神病」と判断してもらうには、医師など専門家に以下の病名に該当するかを鑑定してもらう必要があります。
ヒステリックやノイローゼ気味などといった性格的なものや一時的な状況は精神病と認められません。

  • ・統合失調症(精神分裂病)
  • ・躁うつ病
  • ・アルツハイマー病
  • ・認知症 など

しかし、たとえ「回復の見込みがない強度の精神病である」と医師が判断したとしても、裁判所は簡単に離婚を認めません。

民法752条は、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と夫婦の同居、協力、扶助義務を規定しています。
配偶者が病気になったらもう一方が扶助しなければなりません。回復見込みがないと判断されたからといって離婚が成立してしまえば、病人である配偶者の生活は窮地に陥ります。

また配偶者は望んでうつ病にかかったわけではなく、精神病であると裁判所がすぐに離婚を認めてしまえば人権問題になると考えられているからです。

そのため配偶者のうつ病が離婚原因の場合、「強度の精神病で回復見込みがない」ことに加え、以下の条件も離婚請求を認めるか否かの判断基準になっています。

  • ・強度の精神病により正常な結婚生活を送ることが困難である。
  • ・これまで配偶者の病気に理解をし、生活面や精神面で助けてきた。
  • ・離婚後、配偶者の生活に見通しが立っている。(親や親戚など援助してくれる人がいる)

これらの条件を全て満たす必要がありますので、配偶者のうつ病を理由に離婚が認められるのは難しいといえるでしょう。

裁判所で「回復の見込みがない強度の精神病」と認められた判例

過去の判例では、「単に夫婦の一方が不治の精神病にかかったとしても、病人の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度見込のついた上でなければただちに離婚の請求は許さない。」としています。(最高裁昭和33年7月25日判決)

一方、配偶者が精神病で離婚が認められた以下の事例があります。

(最高裁昭和45年11月24日判決)
Aさんは生活が厳しい中、8年間にわたり精神病である妻の療養費を払い世話してきました。
妻の実家に財力があり、離婚後も可能な範囲で療養費を払う意思があることと夫婦の子を養育することを示し、離婚が認められました。

「配偶者の生活等についての具体的方途」とは、配偶者の看護をしてくれる人がいること及び、金銭面で療養・生活の継続が可能かどうかです。

うつ病の配偶者と離婚するポイント

上述したように、うつ病の配偶者と離婚することは困難であるといえます。それでも条件を満たし裁判所が認めれば離婚できないわけではありません。
具体的にどのように離婚に向けて準備をすればよいか、ポイントをご説明します。

まず協議離婚を目指す

配偶者のうつ病の程度が重度の精神病と判断されなくても、お互いが離婚に同意すれば離婚することができます。
(民法第763条 夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。)

まず離婚について条件を含め相手と話し合いの場を持ちます。
もし相手が取り乱し、逆上して一対一ではまともな話し合いにならない、相手が会うことすら拒否している場合などは、第三者または弁護士などの専門家を通じて交渉することで解決できることもあります。

話し合いで離婚に至らなかった場合は調停を申し立てます。調停委員2名を介した話し合いで、お互いが顔を合わせることなく離婚条件について交渉します。
さらに調停で解決しなかった場合は離婚裁判へと進み、最終的に裁判所の判断を仰ぐことになります。

その他の離婚理由はないか

配偶者である夫がうつ病と診断された時、妻は夫が回復するため一緒に協力して頑張ろうと思ったはずです。
しかし家事や育児をこなしながら夫の世話をしてきたものの、「薬を飲まなくなり仕事も辞め、家計が苦しくなった」「家庭内で暴れて暴力をふるったり、自殺未遂を繰り返すようになった」などの状態では、妻もうつ状態に陥ってしまうでしょう。
それを目の当たりにしている子どもの精神状態に悪影響を及ぼすこともあります。

このような場合、配偶者のうつ病が原因で離婚を決意した場合の離婚事由で、「四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」ではなく、「五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」を理由にできる可能性があります。

第三者からみて配偶者のうつ病が原因で明らかに正常な家庭生活が継続できなくなった、離婚は致し方ない状況であると判断される場合、「婚姻を継続し難い重大な事由がある」として離婚が認められます。

証拠をそろえておく

裁判では離婚事由として裁判官に判断してもらえる証拠が必要です。調停でも納得できる証拠があれば、調停委員や審判官(裁判官)が相手に対し説得してくれる判断材料となり、調停がスムーズにいくことが考えられます。

<うつ病に関する有利な証拠>

  • ・専門医の診断書
  • ・治療履歴
  • ・暴力を受けた時のケガの診断書や写真、音声データ
  • ・物を投げつけたり物に当たって壊れた物の写真(または現物を保管)
  • ・暴言や暴力などの詳細を記した日記

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うつ病の配偶者から慰謝料や養育費はもらえるの?

それでは、実際、離婚に至った場合、うつ病の配偶者から慰謝料はもらえるのでしょうか。

慰謝料について

うつ病は病気であり、かかった本人が一番苦しいはずです。仕事もできず収入もない状態であれば、慰謝料を請求することは非常に困難でしょう。

ただし相手がうつ病のため実家に帰ってしまい、「民法第752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」という義務を放棄した場合、またはDVがひどく身体的・精神的に被害を受けた場合で、かつ相手に資産があれば慰謝料請求が認められることはあります。

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養育費について

慰謝料は配偶者から受けた精神的損害に対する損害賠償ですが、養育費は親の子どもに対する扶養義務に基づいて支払われる金銭ですので、全く別のものです。
うつ病でも収入があれば養育費を払う義務がありますが、働くことができず収入がなければ養育費をもらうことは難しいです。
ただし慰謝料と同様、相手に資産があれば可能性はあります。

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成年後見制度について

配偶者のうつ病の状態が重度で、会話が成り立たなくなったり、意思を示すことができず、離婚に向けて本人が判断できない状態まで陥ってしまうこともあります。
その場合、成年後見人と呼ばれる配偶者に代わる代理人を立てる「成年後見制度」があります。

成年後見制度の申し立ては当事者が行ないますが、本人による手続きが難しい場合はその配偶者が行なうことができます。
通常、成年後見人は親族が選定されますが、離婚調停に向けた申し立てであれば弁護士が選任されることが多いです。
成年後見人は被後見人の監護や財産の管理を行なう義務があります。配偶者(被後見人)の利益に基づき、配偶者に代わり成年後見人が離婚調停や裁判に出席し、解決を図ることになります。

まとめ

うつ病の発症の原因はさまざまです。ストレスが引き金になることもあれば、原因がないまま発症することもあります。
厚生労働省の調査によると、精神疾患で医療機関を受診している患者数は、平成17年以降毎年300万人を超えており、近年はうつ病や認知症などの著しい増加がみられます。

うつ病はかつて「心の風邪」と呼ばれましたが、薬を飲み休養を取れば治る単純な病ではありません。本人だけでなく家族の負担も大きく、生活が一変し支える側の精神状態もまいってしまうこともあります。
配偶者がうつ病で悩んでいる方は、地域の病院や保健所のカウンセリングを受け、一人で抱え込まずにサポートを受けてください。

また離婚を決意した時は、弁護士に相談することをおすすめします。
うつ病である相手との話し合いや、成年後見人が必要な場合の申し立て、離婚調停の手続き、証拠の収集などは一人で解決するには時間がかかり、精神的負担が大きい内容です。
弁護士に依頼することで、離婚に向けて有利に進め早期に解決することができます。

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Authense法律事務所では、離婚問題について、豊富な経験と実績を有する弁護士らで構成する離婚専任チームを設けています。
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また、問題終結後に弁護士を通して合意書を作成しておけば、和解成立後に相手方から再び慰謝料を請求されたり、不貞行為の内容をSNSに投稿されたりといった事後的なトラブルを未然に防止することも可能になります。

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記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。
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